(リベたんがかわいすぎてつらいです)
お風呂から出て部屋に戻るとリベリオが部屋で待っている。
生真面目なリベリオは結婚式の練習がしたいと言うのだが、夏用の薄いパジャマ一枚しか着ていないリベリオの姿を見るだけで、エドアルドは胸が騒ぎ出す。相変わらず表情は全く動いていないのだが。
腕に腕を絡められて結婚式の練習をしている間も、エドアルドの頭の中は下心でいっぱいだった。
(リベたんのかわいい薄紅色の唇にキスしたい! リベたんを抱き締めてその匂いを胸いっぱい嗅ぎたい! リベたんともうひと時も離れていたくない!)
口付けようとすると拒まれ、抱き締めると汗臭いからと逃げられて、エドアルドは若干傷付いてしまう。その上、リベリオを天使だというのも否定された。
(リベたんに格好いいって言われるのは嬉しいんだけど、リベたんが天使だっていうのは譲らないよ! リベたんのふわふわの髪、蜂蜜色の目、長い睫毛、薔薇色の頬、小さな可憐な唇! もう、リベたんみたいに美しいひとはいないんだからね! リベたんは自覚を持ってほしい!)
エドアルドのことは注目を集めるとか言って来るのに、リベリオが天使だということは頑なに認めないリベリオにエドアルドは焦れてしまう。
こんなに美しい男性がどこにいるだろうと思うくらいリベリオは美しい。顔立ちも整っているし、身長は成人男性らしくなっているが、どこかあどけなさが残っていて、体付きも細身で見るものを引き付ける。
(リベたんと結婚式に出たら、リベたんのことを下心のある目で見るやつもいるんだろうなぁ。許せない! ぼくのリベたんなんだから、誰にも見せたくない!)
美しいリベリオが結婚式の衣装を着て国王陛下の前で誓いの言葉を述べるのを想像するだけでエドアルドは落ち着かない気分になった。
何気なくリベリオはいつからエドアルドがリベリオのことが好きだったかなどと聞いてくるが、そんなの決まっている。最初からだ。最初はかわいい義弟に対する感情だったかもしれないけれど、エドアルドは間違いなくリベリオに好意を抱いていた。それがいつしか恋心に変わっていたのだから、一目惚れをしたので間違いないだろう。
そんなことを口に出すとリベリオは驚いた顔をしていた。
その可憐な唇から出てきたのは先見の目という単語だった。
(だーかーらー! ぼくは先見の目なんて持ってないんだってば! 先見の目を持っているのはリベたんの方だよ! どうしてこれだけは通じないのかな? リベたんもぼくになれて色々察しがよくなっているし、ぼくの方もリベたんにはある程度話せるようになっているのに! どうしても! 通じない!)
すれ違ってしまうのはつらかったが、リベリオが完全に思い込んでいるのだから仕方がない。リベリオは思い込みが激しいタイプなのだとこれまでの付き合いでエドアルドは理解していた。
しかも、結婚式初夜のことについて、それまで赤かった顔を青くして「痛がってもやめないで」とか言って来る。
経験はないが、性行為で痛いのは受け入れる側であって、リベリオはエドアルドを抱く側であるというのも理解してもらえない。
この日のためにエドアルドはしっかりと勉強もしているし、どうすれば男性同士の行為がスムーズにいくかも考えて準備も練習も怠りない。最終的にはエドアルドがリベリオを導いて行為に及べばいいのだが、そのときにリベリオがエドアルドを抱けるかだけが疑問だった。
大きくて厳ついエドアルドの体にリベリオは反応するのか。
それは分からない。
無理だったら、養子を取るとか別の方法も考えなければいけないとエドアルドは思っていた。
結婚式当日、アマティ公爵家の王都のタウンハウスの前に二台の馬車が用意された。
一台はジャンルカとレーナとアウローラとダリオが乗っていくもの。もう一台はエドアルドとリベリオが乗る馬車だ。
普段使っている学園に通学したり、列車の駅まで行く馬車とは違い、今日の馬車は白く塗られて、金色の模様が入った豪奢なものだった。王宮での特別な式典のときに乗っていくための特別な馬車なのだ。
座り心地のいい椅子に腰かけて、エドアルドはリベリオの顔をちらちらと見ていた。
緊張した面持ちでリベリオはエドアルドの横に腰かけている。
金糸で刺繍された白いタキシードと白い手袋がリベリオの血管の透けて見えそうな白い肌を引き立てている。
「エド、結婚しても婚約指輪をつけたままでいいかな?」
リベリオの目が真剣にエドアルドを見詰めて来て、エドアルドはゆっくりと頷く。
「ぼくもそのつもり」
幾重にも魔法をかけた婚約指輪はもう二人にとってなくてはならないものになっているし、結婚指輪をわざわざ作らなくても、この婚約指輪で構わない気もしている。
魔石を小さな粒のように圧縮して埋め込んで、引っ掛かりがないように作られているので、婚約指輪は普段使いにできた。
「国王陛下に誓う前に、エドに誓うよ。わたしは一生エドだけを愛して、エドと死が二人を別つまで一緒にいる」
「ぼくも」
誓ってくれるリベリオにエドアルドの頭の中でウエディングベルが鳴る。もう結婚式も直前なのだから、気が早いということもないだろう。
(リベたん、ぼくも一生リベたんだけを愛して、死が二人を別つまで一緒にいるよ!)
世界中にエドアルドはそれを宣言したかった。
王宮の大広間に招かれて、エドアルドがドアの前に立つと、ジャンルカがリベリオをエスコートしてエドアルドの前に連れて来る。
「エドアルド、リベリオ、幸せに」
「ありがとうございます、義父上」
「ありがとうございます、父上」
リベリオの手を取って国王陛下の前に出ると、国王陛下がエドアルドとリベリオに問いかける。
「汝、エドアルド・アマティはリベリオ・アマティを伴侶とし、健やかなるときも、病めるときも、共に生き、生涯愛し合うことを誓うか?」
「誓います」
「汝、リベリオ・アマティはエドアルド・アマティを伴侶とし、健やかなるときも、病めるときも、共に生き、生涯愛し合うことを誓うか?」
「誓います」
「それでは結婚誓約書にサインを」
差し出された結婚誓約書にサインをすると、国王陛下がもう一枚書類を用意させる。
「これより、リベリオ・アマティは公爵であるエドアルド・アマティの伴侶として、侯爵となる。リベリオ、書類にサインを」
「はい、国王陛下」
男性同士の結婚なので、リベリオはアマティ公爵夫人にはなれない。その代わりにアマティ公爵の持っている爵位の中から一番高いものをもらって、アマティ侯爵になるのだ。
(これでリベたんはぼくの夫で、ぼくはリベたんの夫! もうひと時も離れない! リベたん、愛してる! リベたん、フォーエバーラブだよ!)
心の中ではリベリオとエドアルドの結婚を祝う大合唱が始まっている。
その大合唱の中、エドアルドはリベリオに誓いのキスをして、リベリオはそれを恥じらいながら目を伏せて受けてくれた。
参列している貴族たちからは盛大な拍手が贈られ、エドアルドとリベリオの周囲には花びらが撒かれる。
「エドアルドお兄様、リベリオお兄様、おめでとうございます!」
指輪の交換はないので、ダリオが歩み出てリベリオに白い夏咲きの薔薇の花束を渡してくれた。花束を受け取ってリベリオがダリオに軽くハグをして、「ありがとう」と囁いている。その蜂蜜色の目が潤んでいるのは喜びからだろう。
エドアルドとリベリオの結婚は国王陛下に認められた。
結婚式が終わると、エドアルドとリベリオをアルマンドとビアンカとジェレミアとアウローラとダリオとジャンルカとレーナが取り囲む。
「リベリオ様、結婚式の花束をいただいたものは、次に幸せな結婚をすると言われていますわ。わたくしにその花束をいただけませんか?」
「ビアンカ殿下、わたくしもその花束が欲しいです」
「アウローラ嬢は少し早いのではないですか?」
「ビアンカ殿下もご結婚はまだでしょう?」
ビアンカとアウローラが花束を欲しがっているのに、リベリオが困ってアルマンドの方を見ている。
「ぼくはどっちの味方もできないな。そうだ、花束を二つに分けてもらったらどうだろう?」
「半分この幸せですか」
「ビアンカ殿下と半分ずつなら構いませんわ」
平和のために花束はメイドに預けられて、二つに分けてもらうことになった。
「エドアルド兄上、おめでとうございます! エドアルド兄上の格好よさと言ったら。リベリオ様もとても美しかったです」
称賛の言葉を述べるジェレミアにエドアルドも悪い気はしていない。
「ありがとう、ジェレミア」
微笑んでお礼を言ったつもりだったが、エドアルドの表情筋は素直ではなくて、僅かに口角を上げられただけだった。