王都での結婚式の後で急いでアマティ公爵領に移動し、エドアルドとリベリオはお屋敷で休んだ。同じベッドで眠るのは初めてではなかったが、前はエドアルドもリベリオも子どもだった。今回は二十一歳と十八歳という成人した大人である。
緊張しているリベリオにエドアルドは手を取って魔力を注ぎ、リベリオからも魔力を返されて、リベリオの体の強張りを解いた。
(リベたんとついに同じベッドで眠る日が来ました! リベたん、疲れてるよね? 今日は大変だったもんね! 大丈夫、ぼくはリベたんをゆっくり休ませてあげるよ!)
男性二人が寝ても十分広いベッドにリベリオを導いて横になると、リベリオは昨夜見た夢のことを話してくれた。
エドアルドとリベリオがベビーベッドを覗き込んでいて、そこにはリベリオに似た蜂蜜色の髪と、エドアルドに似た紫を帯びた青い目の赤ん坊がいたというのだ。
(リベたん! それこそ先見の目の能力じゃない!? ぼくとリベたんとの間にはかわいい赤ちゃんが生まれて来るんだね! なんてことだろう! 幸せすぎて、ぼく、泣きそう!)
心の中では幸せで号泣しているエドアルドだが、その表情はいつもの通り変わっていなかった。
リベリオを抱き寄せると眠れないかと思ったが、エドアルドも疲れていたようだ。甘い香りのするリベリオのうなじに顔を寄せて、リベリオの匂いを胸いっぱい吸い込んで眠りについていた。
翌朝目が覚めると、リベリオが腕の中で健やかに眠っていて、エドアルドは神に感謝した。
(こんなかわいくて格好よくて天使のリベたんと結婚することができて幸せです! 神様ありがとう! リベたんに祝福を!)
エドアルドが起きるとリベリオもすぐに起きて、朝食を急いで食べると結婚式の準備に入った。
天気予報通り庭はよく晴れていて、ガーデンパーティーにぴったりの日だった。
ジャンルカとレーナの前に出たエドアルドとリベリオがアマティ公爵領をこれから治めていくことを誓うと、ジャンルカからそうではないとダメ出しをされてしまう。
夫夫としての誓いが欲しいと言われて、エドアルドの口は珍しく滑らかに動いていた。
(リベたんとの晴れの日くらい、ぼくの口もちゃんと動くんだね! これで表情も動いてくれたら最高なんだけど! そこまでの贅沢は言っていられないか! 愛するリベたんと一生一緒に幸せになります! 父上、義母上、見守っていてください!)
誓いの言葉を述べると、リベリオもおずおずと誓いの言葉を述べている。
幸せな気持ちで披露宴会場に入ると、挨拶に来る客への対応でエドアルドもリベリオも一瞬も座れないし、豪華な結婚式の料理にも手を付けられなかった。
客の見送りまで全てが終わって、結婚式の衣装を脱いで着替えて寛げたのは夕方になってからだった。
昼食を食べていないのでお腹も空いているし、ずっと立っていたので足も痛くなっている。
そんなエドアルドとリベリオにジャンルカとレーナは気を遣ってくれた。
「今日の夕食は早めにしよう」
「それまでの間、エドアルドとリベリオはお風呂に入って体を休めていたらどうでしょう?」
「お言葉に甘えます」
「ありがとうございます、義父上、母上」
ジャンルカとレーナの言葉に甘えて、バスタブにたっぷりとお湯を溜めて、エドアルドはしっかりと足を揉んでおいた。それだけでなく、全身を完璧に磨き上げる。
リベリオとの初夜のための準備もしておいて、エドアルドがお風呂から出たのはかなり時間がかかっていたようで、リベリオに心配されてしまった。
「エドが湯船で溺れているのではないかと思ったよ」
「大丈夫」
「夕食を食べに行こうか」
新しくエドアルドとリベリオの部屋になったアマティ公爵の部屋で待っていてくれたリベリオと共に食堂に行って夕食を取る。
夕食を食べ終わると、昨日からの結婚式で疲れているジャンルカもレーナもアウローラもダリオも順番にお風呂に入って少し早いが休むことになった。
階段を上がって、廊下を歩いてアマティ公爵夫夫の部屋に近付くにつれて、リベリオの体が強張ってくるのを感じる。
エドアルドはリベリオの手を引き、できる限りリベリオの緊張が解けるように声をかける。
「リベたん、今日は素晴らしかった」
「エドも最高に格好よかったよ」
「リベたんと結婚できて嬉しい」
「わたしも」
いつもならばリベリオの方が口数が多いのに、一生懸命喋るエドアルドよりもリベリオの方が口数が少なくなっている。
これはよくないのではないだろうか。
(リベたん、今日は疲れてるだろうし、結婚初夜を必ず結婚式をした日にしなくてもいいわけだし、二人で眠るだけにしよう! そうしよう! リベたんをこんなに緊張させておくわけにはいかない! そうだよね! 今日は同じ屋根の下に両親もアウたんもだーたんもいるわけだし、そういう気分にならないよね!)
初夜は延期!
心に決めてエドアルドはリベリオを抱き締めてベッドに入った。エドアルドの腕の中で身を固くしているリベリオの顔中にキスを振らせて、柔らかなふわふわの蜂蜜色の髪を撫でる。
「お休み、リベたん」
「エド?」
「今日は疲れてる」
「エドがそう言うなら……」
抱き締めるだけで目を閉じたエドアルドに、リベリオはしばらく体をもぞもぞと動かしていたが、エドアルドの逞しい胸に寄り添うようにして眠りについた。
(リベたんがぼくの腕の中にいる! 安心したこの寝息! 閉じた睫毛の長いこと! リベたんはどんな芸術品よりも美しい! これは神が作り給うた至高の美だ! こんなリベたんと結婚できてぼくはなんて幸せなんだ!)
鼻血が出ないように鼻を押さえつつ、エドアルドもその日はゆっくりと眠ったのだった。
翌日の朝食を終えると、エドアルドとリベリオは新婚旅行に行くことになっていた。旅行先は湖畔の別荘だったが、忙しいアマティ公爵としての仕事を休んで数日だけでも二人きりで過ごせるのがエドアルドはとても嬉しかった。
「エドアルドお義兄様、リベリオお兄様、楽しんできてね!」
「行ってらっしゃい、エドアルドお兄様、リベリオお兄様」
アウローラとダリオに送り出されて、馬車に乗って湖畔の別荘に着くと、遅い昼食を食べて、エドアルドとリベリオは湖畔の別荘のアマティ公爵の部屋に行く。
そちらにも大きな天蓋付きのベッドが用意されていた。
「リベたん……」
「え、エド?」
昨夜は我慢ができたが、リベリオの先見の目での予言も聞いているし、期待が最高潮になっていたエドアルドはリベリオの手を引いてベッドに向かっていた。
「エド、まだ日も高いし……」
「ぼくたちは新婚」
「そ、そうなんだけど!」
恥じ入って顔を真っ赤にするリベリオに口付けて、エドアルドは柔らかな蜂蜜色の髪に鼻先を埋めて、リベリオの耳に囁いた。
「リベたん、して?」
「え?」
何を言われているのか分かっていないリベリオの体をベッドに横たえて、エドアルドはその細い腰に跨った。
行為の最中、リベリオは混乱していたようだった。
エドアルドは優しくリベリオを導き、無事に結ばれることができた。
(今回は初めてだから、魔法薬は飲んでないけど、リベたんが慣れてきたら魔法薬を飲んで、リベたんとの赤ちゃんを……! それにしても、リベたんがちゃんとぼくを抱けてよかった! リベたんに無理って言われたら、どうしようもなかったからね!)
行為の後でも艶々として、ぐったりとしたリベリオを抱き上げてお風呂に入れて、着替えさせて、夕食の席に出たエドアルドは、与えられた快楽で泣きはらしたリベリオに細々と気を遣って夕食を食べさせた。
「エド……わたし……」
「リベたん、かわいかったよ」
甘く囁くエドアルドに、リベリオが泣いて腫れた目を細めて、頬を薔薇色に染めて微笑む。
(あー! 神様! 今日もリベたんがかわいいです! 今日も、明日も、明後日も、ずーっとずっと、永遠にリベたんはかわいいのですね! ぼくは幸せです!)
この幸せをエドアルドは神と両親に深く感謝したのだった。