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第27話 とあるラボラトリー

 ドクターFが開発した、分裂回収以外に使い道がないアプリを開く。

 感情や記憶が増えたことで分裂の反応がアプリ上で見えるようになった、らしい。

 アプリが最初に反応を示したのは、今いる町から18㎞先の集落。

 小ぶりな電動バイクに跨る。

「さて、行くか」

 ホルダーに取り付けたスマホは、気合が入った眉と目がアニメーションのように動く。

『はい! 分裂回収頑張りましょう!』

 彼女の張り切った合図とともに、電動バイクを走らせた。

 シルバーシティ方面に近づくにつれ、舗道はもっと悪化している。

 マップ上通れるはずの道路が、窪み、崩れ、錆びた水道管が剥き出し。

 回り道をしようにも、路面が最悪の瓦礫と泥の道だ。

 クッションが激しく跳ねるせいで、ケツが痛い!

「マジでどうなってんだよ」

『地震の影響ですね。何度か起きてるみたいで、そのせいでどんどん崩れている、と』

「直す予定もなし?」

『うーん、無さそうです』

「はぁ」

 まぁそうだよな、わざわざこんな荒れ果てた大陸を好んで走り回る奴なんかいない。

 暮らしている町さえ無事なら、なんだっていいんだ……——。



 ——回り道をしたおかげで、予定距離数プラス7㎞で、目的の集落に到着となった。

 途中から土で固めた道になっていて、両脇にブロックで長方形に仕切った区画が並ぶ。

 中に、緑の薄い何かが均等に伸びている。

『これは畑ですよ、ノアさん』

「畑?」

『野菜を育てるんです。伸びているのは葉っぱです。きっと大根だと思います』

「野菜、だいこん……食べられるのか?」

『食べられますよ、今の食文化よりずっと、もっと、体に優しいものです』

 集落の入り口付近に矢印看板が突き刺さってる。


【試験畑】


 なんの試験をしてるのか分からないが、隅っこに電動バイクを停めて、分裂探しのため集落に入った。

 持ってるだけで、スマホは勝手に景色を撮影している。

 ブレると思うんだけど、まぁいっか。

 畑以外で目に留まったのは四角い白い壁の家。

 扉の横には【ラボラトリー】という表札が貼ってある。

 ラボラトリーの奥には、コンテナハウスがいくつか建ってるけど、全然人の気配がないというか、無人というか。

「アプリだと、この辺だな」

『ラボの中かもしれません、誰かいますか?』

「どうだろう、すみませーん」

 扉を何度か叩いてみるが、いくら待っても返事がない。

 ドアノブを掴んで押し引きしてみる。

「ダメだ、カギしまってる」

 裏側に回ってみたけど、他に扉もないし、窓もない。

『他の方がいないか探してみますか?』

「うーん、そうするか」

 一旦、この謎のラボラトリーはあとにして、奥で固まってるコンテナハウスへ。

 最初のコンテナハウスには【01】と数字が白い文字で壁に書いてある。

「すみませーん!」

 扉を叩いてみる。

『返事、ないですね。誰もいないのでしょうか』

「逆に不気味だな……実は開いてるとか」

 冗談半分でドアノブを引っ張ると、すんなり開いた。

「えぇ、開いてるじゃん」

『なんだか、危ない感じがします……ノアさん』

「あぁ」

 奥の小窓から明かりが差し込んでるだけで、薄っすらとした暗さが漂う。

 小窓側にテレビがあって、手前にソファがあるんだけど、座ってる。

 人間じゃないのは確かで、角が丸い輪郭、人でいう頭は見当たらない。

「ロボット?」 

 淡い緑色、真ん中上部からケーブルが伸び、コンセントに繋がっていた。

 なんだろう、恐る恐る中へ入ってロボットの正面へ回り込んだ。

 丸い目の部分は恐らく単眼で、瞼を閉ざしてるマークが点灯中。橙色に点滅した充電マークに、胸を撫で下ろす。

 二足歩行タイプだ、足回りが泥で汚れている。

『充電中なら、動きませんね』

「今のところな、けどなんで人が誰も出てこないんだ?」

『うーん、謎が深まりますね。他のコンテナハウスも見て回った方がいいかもしれません』

「そうだな、鍵も探したいし」

 この部屋は特になんにもない。

 次は隣の【02】を探そうと、唯一の扉から出る。

 外に出た瞬間、俺の目の前を何か、鉄の塊が横切って見えた。

 思わぬ強風に前髪が暴れ、鼻先が冷える。

「ううぁああああ!?」

 反射的に後ろへ跳ね下がり、ケツから床に落ちてしまう。

『ノアさん! 大丈夫ですか?!』

 心配そうに、眉を下げて、目が点になってるスマホ。

「だ、大丈夫だけど……なん」

 四角いテレビ型の頭部と骨組みに布を巻いただけの二足歩行ロボットが、俺を冷徹に見下ろしていた。

 画面に浮かび上がる、単眼。横切った鉄の塊は、ロボットの腕で、鋭い針が飛び出ている……あと一歩、早かったら刺されていたかもしれない、ゾゾゾッと、背中が震えあがった。

『ビービービー……ヒト、人間、人間だ』

 流暢に話しだす、発声は男性的な声。

 ロボットは続ける、

『それに、さっきの声、しーちゃんに似ている。もう、誰も来ないのかと諦めていたところだ。やっと新しい管理者が、来てくれた』

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