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ここまではほんの一部なのだが……お分かりいただけるだろうか?
俺の『悲劇な未来』の理由を。
つまり、今……現状のことを言っているのだ。
あの後、一悶着……いや、激しい攻防戦が繰り広げられた。
その結果、俺は見事にあの兄妹たちに惨敗したのである。
その時のことはおいおい話すとして……今は目の前の現実から、逃げ出さないことが重要だ。
色々と突っ込みたいところではあるだろう……だからこそ、俺は突っ込む。
猫山先輩にいたっては、何故そうなったのだろうか……どうしてパンダの着ぐるみを着ているんだ!? おかしいだろ!?
仮に百歩譲って……いや、千歩以上譲ってだ。桔梗は普段、怪しい実験をしている時の恰好だから、ありと言えばありだ。
だが、猫山先輩の着ぐるみのチョイスは何なんだ!? せめて名前に『猫』がついているんだから、ネコの着ぐるみでも着ろよ!! もしくは『イカ部』なんだから、イカの着ぐるみとか! どうしてパンダなんだ!?
確かに、頭がイカれている感じはよく分かる。けど一歩間違えたら、これはただのバカで残念な集まりの部だぞ!?
いやでも、パンダって漢字で書いたら『熊猫』だからワンチャンあり……あり、なのか?
いや、冷静に考えて着ぐるみの時点でなしだろ!?
しかし猫山先輩、いつもの笑顔で『普通の人間厳禁!』とか『イカれた奴以外立ち入り禁止!』とか『ヘタレはいらん!』などなど。一年前に話し合って決めた、最低限の入部条件を……何の恥ずかしげもなく、堂々と言ってのけている。
もし俺がこんな変な恰好をした人物から、こんなことを言われたら……いや、言われなくても、普通の生徒からすれば『こっちから願い下げだ!』って、キレられるレベルだ。むしろキレても良いぞ、新入生諸君。
そしてこの中で唯一、普通の制服を着ている俺。
多分、新入生たちから『あ、あの人。この中で一番まともそうな人』だと思われているに違いない。すでにそんな無言の視線が、チクチクと飛んできている。間違っちゃいない……間違っちゃいないが、そんな憐みに満ちた目で俺を見ないでくれ!
実際、俺は内心で「頼む、一年生の諸君……その目が逆に痛いんだ!!」と、涙を拭いながら懇願していた。
胃の痛みが限界に近づき始め、俺は唇を噛んで軽く腹をさする。
そんな俺のことなど、お構いなしに……猫山先輩は隣で好き放題やっている。
一方の桔梗はというと……終始、無言・無表情を貫き通し、まるで『我関せず』といった態度である。おい、どうにかしろ、桔梗。お前の実の兄貴だろ。
俺が心の中で「あぁ、早く終わって欲しい……」と考えていると、どこからか『クスクス』と笑う声が聞こえてきた。
《アイツら、また変なことしているぞ》
《本当だ、本当だ》
《|今《・》
聞こえてるんだよなー……。
俺は
声の主は俺の視線に気づくと、一目散に逃げていった。
俺は極力小さく、ため息をつく。また
この部活動紹介と言い、今夜
ふと俺は、何気なく新入生たちへと目を向ける。猫山先輩に引いている生徒たちの中に一人だけ、俺たちとは違う方へと顔を向けている。
その生徒は気のせいか、先程の声の主が去っていった方向を見ているような気が……。
「もしかしてあの子……
俺はポツリと呟く。
︎︎先日、肝試しに来た生徒ではない。仮に先日の生徒だったとしても、部活動内容の記憶は桔梗たちが綺麗に消し去った。
ジッと見すぎてしまっただろうか。俺の視線に気づいたその生徒は、慌てたような顔をすると、すぐに俯いてしまった。
……そして俺が、様々な疑問や痛みに耐えている間。とうとう猫山先輩は、詳しい活動内容と時間を言わず……最低限の入部条件と、部室の場所だけを言い終えようとしていた。
「そんじゃあ、これらのことを踏まえて入部したいっていうヤツ! 直接旧校舎にある部室に来るか、俺のとこまで来るように! 以上ぅ♪」
……その頃には新入生たちはおろか、この場にいる全員がドン引きしていた。
ちなみにだが、ウチの部の掲げる最低入部条件はこうだ。
《入部条件》
『普通の人間厳禁!』
『イカレた奴以外は立ち入り禁止!』
『ヘタレもいらん!』
『口が軽い奴もいらん!』
『冷やかしは帰りやがれ!!』
……と、いう内容。
きっと今頃、新入生たちの中では『絶対にヤバそうな部活動ランキング』で、堂々の第一位をとったに違いない。
逆にとってなかったら、ウチの部活動以外にどの部活動が一位をとったのか、理由と共に教えてほしいくらいだ。
……と、たったこれだけの紹介をする約三分間ほどが、俺にとってはやけに長く……頭痛と胃痛に悩まされるには、十分すぎるくらい地獄だった。
もし、あと数分延長させられていたら……俺の胃には、確実に穴が開いていたことだろう。
猫山先輩は、実に満足そうだった。
だがこのドン引きの状態で次の部活動にバトンを渡すというのが、俺からすれば物凄く申し訳なかった。
正直、ほかの部活動から『切腹しろ!』と言われたら、介錯なしでも迷わず俺は切腹していたに違いない。
そして心なしか、他の部活動の生徒たちとすれ違う度に「宇辻、お疲れ……」という、慰めと同情の混じった視線と表情を向けられる。やめてくれ、どんどん悲しくなるから。
俺は残りの部活動が紹介をしている間、心の中では「この部活動紹介が終わったら、保健室に行って胃薬を貰おう」と決意していたのだ。