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四限目 〜地獄の部活動紹介-後編-〜

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 ここまではほんの一部なのだが……お分かりいただけるだろうか?

 俺の『悲劇な未来』の理由を。


 つまり、今……現状のことを言っているのだ。


 あの後、一悶着……いや、激しい攻防戦が繰り広げられた。

 その結果、俺は見事にあの兄妹たちに惨敗したのである。



 その時のことはおいおい話すとして……今は目の前の現実から、逃げ出さないことが重要だ。



 色々と突っ込みたいところではあるだろう……だからこそ、俺は突っ込む。


 猫山先輩にいたっては、何故そうなったのだろうか……どうしてパンダの着ぐるみを着ているんだ!? おかしいだろ!?

 仮に百歩譲って……いや、千歩以上譲ってだ。桔梗は普段、怪しい実験をしている時の恰好だから、ありと言えばありだ。


 だが、猫山先輩の着ぐるみのチョイスは何なんだ!? せめて名前に『猫』がついているんだから、ネコの着ぐるみでも着ろよ!! もしくは『イカ部』なんだから、イカの着ぐるみとか! どうしてパンダなんだ!?


 確かに、頭がイカれている感じはよく分かる。けど一歩間違えたら、これはただのバカで残念な集まりの部だぞ!?


 いやでも、パンダって漢字で書いたら『熊猫』だからワンチャンあり……あり、なのか?

 いや、冷静に考えて着ぐるみの時点でなしだろ!?


 しかし猫山先輩、いつもの笑顔で『普通の人間厳禁!』とか『イカれた奴以外立ち入り禁止!』とか『ヘタレはいらん!』などなど。一年前に話し合って決めた、最低限の入部条件を……何の恥ずかしげもなく、堂々と言ってのけている。


 もし俺がこんな変な恰好をした人物から、こんなことを言われたら……いや、言われなくても、普通の生徒からすれば『こっちから願い下げだ!』って、キレられるレベルだ。むしろキレても良いぞ、新入生諸君。


 そしてこの中で唯一、普通の制服を着ている俺。


 多分、新入生たちから『あ、あの人。この中で一番まともそうな人』だと思われているに違いない。すでにそんな無言の視線が、チクチクと飛んできている。間違っちゃいない……間違っちゃいないが、そんな憐みに満ちた目で俺を見ないでくれ!


 実際、俺は内心で「頼む、一年生の諸君……その目が逆に痛いんだ!!」と、涙を拭いながら懇願していた。



 胃の痛みが限界に近づき始め、俺は唇を噛んで軽く腹をさする。


 そんな俺のことなど、お構いなしに……猫山先輩は隣で好き放題やっている。


 一方の桔梗はというと……終始、無言・無表情を貫き通し、まるで『我関せず』といった態度である。おい、どうにかしろ、桔梗。お前の実の兄貴だろ。


 俺が心の中で「あぁ、早く終わって欲しい……」と考えていると、どこからか『クスクス』と笑う声が聞こえてきた。




 《アイツら、また変なことしているぞ》

 《本当だ、本当だ》

 《|今《・》、からかってやろうぞ》




 聞こえてるんだよなー……。


 俺は、声の主へ睨むように無言で視線を向ける。

 声の主は俺の視線に気づくと、一目散に逃げていった。


 俺は極力小さく、ため息をつく。またに話のネタを与えてしまった。


 この部活動紹介と言い、今夜いじられることを考えると、既に疲労困憊ひろうこんぱいである。


 ふと俺は、何気なく新入生たちへと目を向ける。猫山先輩に引いている生徒たちの中に一人だけ、俺たちとは違う方へと顔を向けている。

 その生徒は気のせいか、先程の声の主が去っていった方向を見ているような気が……。




「もしかしてあの子……、のか……?」




 俺はポツリと呟く。


  ︎︎先日、肝試しに来た生徒ではない。仮に先日の生徒だったとしても、部活動内容の記憶は桔梗たちが綺麗に消し去った。


 ジッと見すぎてしまっただろうか。俺の視線に気づいたその生徒は、慌てたような顔をすると、すぐに俯いてしまった。


 ……そして俺が、様々な疑問や痛みに耐えている間。とうとう猫山先輩は、詳しい活動内容と時間を言わず……最低限の入部条件と、部室の場所だけを言い終えようとしていた。


「そんじゃあ、これらのことを踏まえて入部したいっていうヤツ! 直接旧校舎にある部室に来るか、俺のとこまで来るように! 以上ぅ♪」


 ……その頃には新入生たちはおろか、この場にいる全員がドン引きしていた。




 ちなみにだが、ウチの部の掲げる最低入部条件はこうだ。


 《入部条件》


『普通の人間厳禁!』


『イカレた奴以外は立ち入り禁止!』


『ヘタレもいらん!』


『口が軽い奴もいらん!』


『冷やかしは帰りやがれ!!』


 ……と、いう内容。



 きっと今頃、新入生たちの中では『絶対にヤバそうな部活動ランキング』で、堂々の第一位をとったに違いない。

 逆にとってなかったら、ウチの部活動以外にどの部活動が一位をとったのか、理由と共に教えてほしいくらいだ。


 ……と、たったこれだけの紹介をする約三分間ほどが、俺にとってはやけに長く……頭痛と胃痛に悩まされるには、十分すぎるくらい地獄だった。


 もし、あと数分延長させられていたら……俺の胃には、確実に穴が開いていたことだろう。




 猫山先輩は、実に満足そうだった。

 だがこのドン引きの状態で次の部活動にバトンを渡すというのが、俺からすれば物凄く申し訳なかった。

 正直、ほかの部活動から『切腹しろ!』と言われたら、介錯なしでも迷わず俺は切腹していたに違いない。

 そして心なしか、他の部活動の生徒たちとすれ違う度に「宇辻、お疲れ……」という、慰めと同情の混じった視線と表情を向けられる。やめてくれ、どんどん悲しくなるから。




 俺は残りの部活動が紹介をしている間、心の中では「この部活動紹介が終わったら、保健室に行って胃薬を貰おう」と決意していたのだ。

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