――まあ、こいつを『困らせてやる』ってのが、最大の目的らしいからな。盗みってのはその手段にすぎねえってわけだ。
「ちなみに場合によっては命を奪ってもいい、って話だ。どうする――?」
そこまでしていいとは言われてないが、最大限の脅してこいというボスの指令により、ハッタリをかます。
「――玄関の棚に……ひととおり」
「~~~あっそ。別に面白みもなんもないのな~。天井裏とか意外な場所にわんさか隠してあるのかと思いきや。じゃ、オレはあっちを物色すっかな」
ジオットは玄関の方へ向かい、ラウルはロープを取り出し――
「な、なんだよ」
「ウロチョロされると迷惑だからな。泥棒に入ったなら、拘束は基本だ」
電光石火の
「よくわからねえ動機で盗みを働くとは……怪盗アルテミスってのは随分暇な連中なんだな?」
「極多忙だ。正直、こんなことをしている場合ではないと思っている」
「――あ?」
ラウルの台詞に怪訝そうな顔をしたアガルトだったが、「あったあった。すげえ数だぜ、これ!」という声に反応するように、短く、ち、と舌打ちをした。
「やべえなあ。こんなにあらゆる種類のブツがあると思ってなかったから、全部盗み出せっかな。もう少しデカイ袋を多く持ってくるんだった」
「くそ……」
「まあ、貴金属みたく価値のあるもんじゃないことを思えば、たいした被害も――」
「大アリだ! 言っとくが、あれは特注なんだ! 職人あってのモノなんだよ! 金さえあればいいってもんじゃない」
「そうか。で、あればそれが盗まれたということになれば、随分『職人』の宣伝にもなる。それを考えれば――」
「誰が公表するか!」
「だったら大人しくしていろ」
「………」
しばらくすると、玄関の方から「大漁大漁~」と言いながら、目標物が詰め込まれた大きな袋を持ったジオットが戻ってきた。
「すごいな~。こいつの存在を知ってる連中にはこれらを絶対に言いふらすなって口止め料まで払ってたってのに、フッた女性へのケアは出来てないんだもんなぁ」
「いずれにせよ、こんなもので自分を偽るなど、誠実さに欠ける行為だ。ほかに、隠しているものはないのか?」
「……ねえよ」
自分の正体を偽ってルオ家に潜入していることは棚に上げつつそう、尋ねたラウルに対し、アガルトは不貞腐れたように言った。
その反応を受けたラウルは、枕の下を探る。
「――もう一足、発見だ」
そこには何かあったときのための予備なのか、逃走用として確保してあるのか、高価そうなデザインのスニーカーがあった。
「ああっ、くそっ、そ、そいつだけは……!」
「正直に答えろと言った筈だ。他には――?」
思わず銃を突きつけ、ラウルが尋ねた。
「……あとは……風呂場に……」
汗だくになりながら答える。
即浴室へ駆け込んだジオットの「あったあった」という声が返ってきた。