ふたりが屋敷に到着したころには午後八時を回っていた。
日暮れ後、歩行者天国が解除されたために、どうにかタクシーを拾うことができて、復路は楽に移動することが叶ったのだった。
「さすがに疲れたわね」
「丸一日、外出していましたからね」
ラウルはタクシーを見送ったあと、すぐさま門を開錠し、ナディアが通れるように開いた。
彼女のあとに続き、門をくぐったラウルは再び施錠する。
「そうね……」
アプローチを進みながら、ナディアは口に手を当て、あくびを漏らした。
――長かったようで、あっという間だったな。
ナディアとふたりきり、どうなることかと思ったが、なんとか無事、一日過ごすことが出来た。
――明日になれば侍女長とメイドのひとりが戻ってくるということだったからな。
ふたりきりで過ごすのは今夜のみ、か。
だが……
――これはチャンスなのではないだろうか。
思わず小さくガッツポーズしながら、胸を躍らせた。
実はこのときラウルの頭によぎったのは、色恋沙汰方面の好機ではない。
――今までロクに探ることが出来なかった屋敷内をくまなく調べやすくなる。
そう、この屋敷のどこかに眠る『華麗なる忠誠』なる秘宝の在処を探ることだ。
「なにグズグズしてるの? 早く家の鍵を開けて」
「はい。ただいま」
――そうだ。なんなら令嬢の部屋の調査もしやすくなる。一番怪しいのは何よりも彼女の部屋、だからな……。
玄関の扉を開けながらも、ラウルは様々な考えを巡らせていた。