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第33話番と言われてもね…

 以前に藤右衛門や牙瑠風と話した折、2人は鑑定という神器の存在を知らなかった。だからてっきり殺魔では無いものだと思いこんでいたが考えてみれば三氏族の巫女に加え祭祀王たるイサハヤも巫女としての資質を調べるだろうことを考えれば最低4組の神器があると考えるのが道理である。


 「あるの?鑑定?」


 「そりゃ流石にあるでしょ。あ〜でも神器はタケルが持ってるから私は実質見たこと無いなぁ。やり方?とかもわかんないし、巫女を持つ氏族しか持ってないと思う。一般の人は必要性もないから存在自体知らないんじゃないかな?」


 さもありなん。そのあたりの事情は前にハスキーな騎士たちから聞いたので納得である。


 「ってか、天結のとこそんなに巫女量産してるとか空恐ろしすぎるんだけど。」


 「私はそんだけ量産したのに過去300年1人も殺魔にたどり着かなかった事実が恐ろしいよ。」


 「300年!?」


 「そう。巫女の戦力?増強要因だからどんなにたくさん生まれても殺魔にたどり着けなければ何の意味もないでしょ。いなくなったのか逃げたのかはしらないけど。」


 「え〜。そんな人いままで聞いたこと無いよぉ。こわぁどこ行ったのその人たち。」


 「さぁ?神のみぞ知る?」


 そんなこと本当に思っているわけではない。ある程度の行方は氏族だって把握しているはずだ。だがそんな一族の恥部をここでいう必要もなかろ。


 「ねぇ、もし私達の代で何も起きなかったら天結の氏族ってどうするの?仮にたどり着いて良しとしたって最終目的は私達と同じ御役目なんでしょ?」


 「そうだねぇ。そのへんはあれかなぁ?こっちのタケルの判断次第なんだろうけど。何もなくてよかったねぇで骨を埋めるかこっちで新しい血統としてまた繁殖させられるか。」


 「繁殖って……いいかたぁ。」


 「そりゃ兎や牛は一夫一妻じゃないからどうにでもなるでしょ。」


 「あ〜うちは郡婚だし兎は乱婚だからねぇ。血統主義で行くならたしかにやりやすいけど犬は一度結婚しちゃうとそうもいかないってか番ってのあるんでしょ?運命の相手だっけ?」


 「うちの氏族はそういうのまるっと無視して政略結婚だからそういう器官だか本能バカになってそうな気がする。うちの両親も祖父母も政略のせいか蜜月って感じもなかったし。」


 「え〜やめてぇ〜。犬と鶏の番ちょっと憧れてたのに〜夢返してぇ。」


 「んなこと言われましても。」


 そんな会話をしながら店舗から奥の事務所と在庫置き場を兼ねていると見られる部屋の棚から正方形の包を五つ台に出して更に奥にある扉から内階段を下ると前に紙漉きをさせてもらった作業場にたどり着いた。


 「もぉ。2人とも遅いよぉ。」


 先に作業場に降りていた麗は待ち長かったのか階段から降りてすぐの場所に置かれた台のそばでぴょんこぴょんこしている。


 「あ。そうだ一応言っとくけど、私も犬と鳥の番にはっ夢持ってるから1人としか結婚する気無いよぉ。」


 「え、扉2枚隔ててたのに聞こえたの?」


 「何言ってるのぉ?私兎なんだから当たり前じゃぁん!」


 まさに地獄耳でびっくりである。


 「まぁ、麗は第二師団の兎隊長一筋だもんねぇ〜。」


 「いやぁ〜ん!そんなに褒めないでぇ。」


 「や、別に褒めてない。生態系は種族で違うんだから別にいいじゃん。麗実はモテてるでしょ。お客さんから色々聞くよぉ。」


 「え、なにそれ。」


 クネクネぴょんぴょんと器用なことをしていた麗だが急に話の方向が変わって動きが止まる。


 「冒険者の耳長氏に屋台船の跳丸氏でしょ〜あと潜り漁が趣味の丸尻氏。」


 「待って待って!なんで椿ちゃんがそんなこと知ってるの!?」


 「あ〜あとご実家推薦の兎野山卿も蹴りだしたんだっけ?」


 「ぎゃぁ〜!誰よそんなに言いふらしてるやつぅぅぅ!」


 「郷中の兎さんたちが話してたの聞こえた。モテモテじゃん。」


 「むぅ〜。私は好きになった人1人からモテればそれでいいんですぅ。そんなこと言ってるけど、椿ちゃんだって海洋族の幼馴染に冒険者の人に告白されたの知ってるんだからねぇ〜群れ違うのにどうする気なんですかぁ〜。」


 「や。どうするって言われてもねぇ。」


 「こ、これが恋バナってやつか。」


 人生初の桃色な会話にこれが青い春の人たちがする噂の恋バナってやつかぁと思わずつぶやいた。照れながらもまんざらではなくキャッキャしている2人はなんだか楽しそうで、これまできてきた巫女たちの足の引っ張り合いや蹴落とし合い、含みや裏を持たせた嫌味の欧州尾は全く違いなんてキラキラしていて眩しく見えたのは致し方ないというものだった。


 そんなつぶやきを聞いた2人はピタッと動きを止めてまじまじと天結を見る。


 「なに?」


 「いやいやいや。天結さん!あなたにだっているでしょう。」


 「や、なんで急にそんな呼び方変えた!?」


 「そうだよぉ〜天結ちゃんだっていい人の1人くらいいるでしょう?」


 「いや。いないから。まだ殺魔に来て1ヶ月足らずでそんな人いるわけ無いじゃん。」


 あまりにもきっぱりいうので2人は顔を見合わせてからもう一度天結を見つめて一歩近づく。


 『本当に?』


 「本当に。」


 『本当の本当に?』


 「本当の本当に。……え、なんなの?」


 今度は2人揃って1歩下がるとクルッと天結に背を向けてコソコソと話をする。


 「待って私第一師団の犬の副隊長の番が現れたって聞いたんだけどぉ。」


 「聞いた聞いた。語学力抜群の外の國から移住してきた人でしょ?え、違うの?」


 「でも犬の番って出会って番ったら蜜月突入するんでしょぉ?」


 「副隊長の拗らせから考えたら3ヶ月どころか1年くらい立て籠もりそうじゃない?」


 「そんなのもう拉致監禁じゃん。郡婚乱婚の私達にはもはや苦行だよぉ。犬怖いぃ。」


 「慣れない土地でいきなりそんなことなったら天結可哀想すぎる!私達だけでも副隊長勘違い説を押して守らなきゃ!」


 当人の知らぬ場所で何故か天結を守ろうの会が発足した瞬間であった。




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