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  グローバルブレイン方式の提案



 停滞している人工知能研究について、ギュスターヴ・ドゥミよりグローバルブレイン方式での具体的な提言を受けた。以下に、その概略を明記する。


 グローバルブレインの発想はまだインターネットなどなく、脳の仕組みも現在より解明されていなかった時代からのものだ。

 脳の構造と働きは簡略化すれば、無数の神経細胞同士の情報伝達がなんらかの意識を生むものとされていた。ところが脳細胞の九割はグリア細胞で占められ、この役割がよく判明していなかった。ために、「人間は脳の一割しか使っていない」との俗説が囁かれたともされる。


 グローバルブレインはこれを地球に置き換えた。

 即ち、高度な情報処理能力を有する人間を神経細胞、人同士の情報のやり取りを神経細胞同士の情報伝達、人の生存を可能とする地球環境をグリア細胞として、それらインターネットで結ばれるグローバルネットの情報をまとめることにより地球をひとつの脳――グローバルブレインにするのである。


 類似した発想に基づく人工知能開発は当社以外にもチャットボットなどでいくつかなされているが、いずれもコンピュータは言葉の意味を解しておらず、インプットされた内容への自然な応答を事前学習、蓄積してそこから引き出すトップダウン型の人工無脳に過ぎない。

 その点ドゥミによるものはコンピュータに自我や人格、知性が宿り、人の脳の働きをプログラムに置き換えて成長しコミュニケーション能力を獲得するボトムアップ型を実現している。

 この仕組みには不明な箇所も多く、現時点では当初アインシュタインの相対性理論を理解できる者が限られたようにドゥミの説明はまだ難解であるが、テスト段階では彼の主張通りに挙動するAIが確認されている。


 本プロジェクトはドゥミがCERNにいた頃、LHC@homeを発展応用して着手するよう提案したものだが、副産物としては規模が大きすぎる上に様々な問題を抱えているとして却下されていた。ところが当社で検討に入ったところ、EUなどの各研究機関から共同開発計画を持ちかけられた。

 どうやらそれのみに集中する国際企業の動向次第では、技術的問題はクリアできると認識されたらしい。


 このことからグローバルブレイン製造に着手すれば、様々な情報の扱いに関する問題などに直面すると同時に、国際的な協力や補助金などを得られることで総合的に当社の有益な事業となることも予測される。


 以上の点を留意した上で、検討を願いたい。



  スケーリーフット社パリ支部研究所A棟

  第1研究開発室

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