監視対象、詩江里聖奈と南方祝馬は非常はしごを降下中。二階部分に到達。
「……なあ、大丈夫か?」
「なにが?」
祝馬の問いに聖奈が応答。
「いや、おれもいろいろびっくりしたが。おまえは、その」
「既知のことだったわよ」
「え?」
祝馬、聖奈を見上げかけるも途中で視線を逸脱。
「彼が父親だってこと」発言は聖奈。「……純粋にヘレナの研究に惹かれたのもあったけど、なにか共通点も感じたし。大学卒業前からあんまり熱心にあたしを誘うから、疑ってもいた。ママから聞いた特徴とも一致してたしね。
一緒の職場にいれば毛髪とかも容易に手に入るし、とっくに検査もしてた。当然、ヘレナのモデルになったときに彼が気づいたのも知ってた。……あたしのほうも、言い出せなかったってことよ」
「……そうか」
「それより」聖奈、再度開口。「博士の小説なら密かに読んだことあるし、確かにあれならヘレナも世界も元に戻せると思う。けど、あなたはちゃんとできるの!?」
「なにを?」
「だから! へ、ヘレナよ!!」
聖奈に頬の紅潮を確認。
「またか」祝馬、ため息。「手に唾つけてヘレナの口に突っ込みゃいいんだろ」
「そうよ。粘膜同士の接触なんかする必要ないんだからね! ヘレナはあたしに瓜二つなんだから、変な真似したらぶっ殺すわよ!!」
「あのな。それこそ、妙ちきりんな修正パッチ作った親父に文句言えよ」
祝馬、顔を向上。
聖奈がキック。――祝馬の顔面に命中。
「上向かないでよ! 白衣の下スカートなんだから」
「じ、じゃあ先に降りればよかっただろ。日本製アニメキャラ柄女児ショーツなら所長室で見たし」
「うっさいわね!」
赤面した聖奈、再度祝馬にキック。
「だいたい、高いとこ苦手って嘘ついたのあなたでしょ! ぜんぜん怖がってないじゃない」
「に、苦手だったのは知ってるだろ。おまえが越してからだいぶ経つんだぞ、多少は克服したんだよ。……てか、それとおれを先に降ろすことになんの関係があるんだ?」
「怯えて手を放して、上から落ちてきたりしたら巻き込まれかねないでしょ」
「……親子だな」
「なんか言った?」
「別に」