――休憩室の扉開閉。
新たな侵入者を複数検知。グローバルネットに照合。
日本、フランスのデータバンクに確認。99%の確率で、南方祝馬、詩江里聖奈、開発コードH102――ヘレナ、とそれぞれ推定。
ロンドン本社研究所所長代理の権限により、三名を重要監視対象と認識。映像と音声を可能な限り文章に変換、記録する。
「よーし着いた」祝馬、周囲を見回しつつ発言。「……あれ、ここパリ支部じゃないの?」
「異変の影響か窓の外真っ暗ね。スケーリーフット・ロンドン本社の研究所H棟ではあるはずよ」
聖奈、休憩室の表示プレートを顎でしゃくって示唆。
「フランス語じゃなくて英語で書いてあるでしょ」
「にしては似てるな」
「係わった設計者が同じだし、オカルト趣味のパパが
「ふーん。けど、なんで休憩室前なんだ?」
「ホールに繋げようとしましたが、できませんでした」
発言はヘレナ。目蓋を閉じて静止。
――警告、H102内部のマイクログローバルブレインを介した不正アクセスを感知。
ファイアウォールが突破された。
所長代理のセキュリティプログラムで防衛、中央ホールの情報は死守。
「……局所的異変により、監視カメラを一部ハッキング」
ヘレナ、目を開けて説明。
「他のドアは白黒の靄に侵食され、ここが中央ホールに最も近いドアとなっていたために通じたようです」
「なら中央ホールの出入口も全滅か。いったいなんなんだ、あの靄。ここでもそこらじゅうで増えてるけど」
「解析したところ、あれは白や黒ですらありません。わたしたちがそう認識しているだけで、実体は真空であり揺らぎさえないようです」
「それって」聖奈、推理。「物理学上ありえない完全な〝無〟ってこと? ……じゃあ、あの色はそのイメージかな。白や黒は、なにも書いたり描いたり表示してない状態として人がよく使うから。世界が消えてるってことかしら」
「人間原理宇宙論が正しいからか?」推測は祝馬。「人が観測してるから宇宙があるのに、ヘレナがファフロツキーズで人類の始祖になる命の源を生まないから……」
「それはパパが疑ってやったって聞いたでしょ」
「でしたよねー」
局所的異変の発生を感知。――廊下の隅に書類が出現。
「聖奈」それを指差し、ヘレナが報告。「なにか現れました」
「これは、……パパによるレポートみたい」
聖奈が書類を取得。――黙読。
「……そういうことだったのね」
「なんだよ、もったいぶって」
祝馬、発言。
警告。第二会議室、図書室、小食堂、〝無〟によって侵食。
「……ここでも靄が広がってる」それを確認し、聖奈が先導。「ゆっくりおしゃべりしてる時間はなさそうよ。移動しながら軽く解説するわ、急ぎましょ!」