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第23話 今日のラッキーカラー【赤】

 みはまランドマークは駅改札に直結する商業施設だ。ビルの外に出れば、映画館や遊園地もあるため、家族連れやデートと思われるカップルも多い。さらに、少し歩いて海沿いまでいけば、歴史的建造物のレンガ倉庫を改築したショッピングモールや、観光船の発着場もあり、美浜市でも有名な観光スポットにもなっている。当然、土日祝日は買い物客で賑わう。


 つまり、駅改札を出た先での待ち合わせは、相手を探すのに一苦労するのが通常運転だ。


 改札の先で淳之輔先生を探してあたりを見まわした。

 先生は背も高いから目立ちそうなものなんだけど、これだけの人出だと、電話かけた方が早いかもしれない。

 スマホを取り出した時、肩がぽんっと軽く叩かれた。


「瑠星、見つけた!」


 振り返ると、ばっちり化粧をした先生がいた。

 お洒落な黒シャツには天使の羽根のようなデザインが施されている。そういえば昨日、美羽がいっていたな。淳之輔先生が着ている服は、天使モチーフが多いブランドだって。今日もそうなのかもしれない。

 いつも「こんばんは」という艶々の唇が「おはよ」といったことに、妙な違和感とくすぐったさを感じた。


「……おはようございます」

「凄い人混みだから、見つけられないかと思った」

「今、電話しようかと思ってました」

「俺も見つけられなかったら、そうしようと思ってたんだ。すぐ見つけられて良かったよ。じゃ、行こうか?」


 歩き出す淳之輔先生の横に並ぼうとした時、すれ違いざまにぶつかられて体が傾いだ。それくらいで倒れるなんてことはないけど、不可抗力で先生の腕に体がぶつかっていしまった。

 ふわりと、優しい香りが鼻腔をくすぐった。いつもの、淳之輔先生がつけている香水だ。


「大丈夫か? ここ抜ければ、もう少し人通りはマシになると思うから」


 そういいながら、淳之輔先生は俺の手を引っ張った。

 男同士で手を握っていることにぎょっとした。でも、先生は特に表情を変えず、そのままエスカレーターのステップを踏んだ。


「どんな手帳が良いか考えてきたか?」

「え……あー、いやぁ」

「中身はスタンダードなマンスリーと週間、メモがあればまあいいと思うけど。問題はだよな」

「がわ……先生の手帳、革製ですか? あれ、カッコいいですよね」

「あれ? 高校から使ってるからずいぶん日に焼けたけどな」

「高校から?」

「そう。リフィルを交換して使ってるんだ」

「リフィル?」

「ああ、中身のことをそういうんだ」


 今まで全く手帳なんて興味がなかった俺には、初めての単語だ。そもそも、手帳って中身を交換して使えるってことすら知らなかった。


「女子は、ノートタイプで毎年買い換えてたりするけどな」

「色々あるんですね」

「占い付きとかもあるぞ」

「女子が好きそうですね」

「瑠星はそういうの興味ない?」

「うーん、あんまりないかな」

「ははっ、俺も。けど、朝の星座占いとか見ちゃうんだよ。何でだろうな」

「わかります。ラッキーカラーとか、つい見ちゃって。だからどうするって訳じゃないけど」

「あれだな、天気予報みたいなノリなんだよ」


 わかると言い合いながら、勉強とは何の関係もない話をしてエスカレーターを降りる。その先から客は分散していき、少し人通りが緩やかになっていた。


 握られていた手は、何事もなかったように離れていった。そうして、目的の本屋と雑貨屋が入っている隣のビルに向かいながら、他愛もない会話を続けていた。


「今日のラッキーカラー、なんだった?」

「赤でした。身に着けるもので赤って難しくないですか?」

「そうか? 今日の服装なら、スニーカーが赤でも良いと思うけど」

「赤のスニーカーなんて持ってないです」

「じゃあ、手帳を赤にしようか?」

「え、それはちょっと……」


 思わず顔を引きつらせると、淳之輔先生は可笑しそうに「冗談だって」といったけど、本当に冗談なのか。そういえば、先生のラッキーカラーは何なんだろう。

 ふと思って見上げると、左耳で紫色のピアスがきらりと光った。さすがにそれは安直か。


 そういえば、シャツの柄にも紫が入っているな。もしかして、ラッキーカラーじゃなくて好きな色なのかもしれない。

 黒地のシャツに紫って、すごく大人な感じがする。俺との年齢差、たった三年なのに。やっぱり、身長差かな。化粧の影響とか。いや、ファッションの好みかもしれない。


「……先生、紫色好きなの?」

「嫌いじゃないかな。どうして?」

「ほら、ピアスとシャツに紫があるから」

「ああ、そういうことか。確かに、ピアスは服に合わせてアメジスト選んだんだよ」

「じゃあ、今日のラッキーカラー?」

「いいや。今朝の星座占い見てなかいんだよね。獅子座、何色だった?」

「えっ!?」


 思わず声を上げると、淳之輔先生は不思議そうに瞬いた。

 もしかして、先生と俺は星座が同じってこと?

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