俺が驚いた顔をしているのを、淳之輔先生は不思議そうに見降ろしている。
「先生も、獅子座なの?」
「ん? てことは、もしかして瑠星も? へー、意外だな」
「あー……よく、顔だけ獅子座だっていわれます」
ぱっと笑顔になった先生に、俺は思わず苦笑した。
獅子座といえば明るくて何事でも中心にいるような、カリスマ性を持つ一軍のイメージだ。そう、淳之輔先生が獅子座といわれたら、凄い納得してしまう。
それに反して、俺は目立ちたいとか思わないのもあって「顔だけ獅子座」といわれることが多い。
母さんが、芸能事務所に俺の履歴書を送ろうとしたくらいには、昔から、顔だけはそれなりに目立つ部類だ。だけど、いろんな黒歴史の影響もあってか、俺としてはもっと地味でいいと思ってる。出来れば中心にはいたくないから。
「顔だけって、そんなことないと思うけど」
「そうですか? 自分でいうのもなんだけど、獅子座っぽくないと思いますよ。目立つの嫌いだし」
「そうかな。瑠星の頑張り屋なとことか、何だかんだ空気読んでるのって、獅子座じゃない?」
「空気を読むって……」
「不穏な空気とか苦手だろ? 出来れば、皆、仲良くいてほしいっていうかさ」
それは、身に覚えしかない。
学園祭の女装アイドルを引き受ける羽目になったのだって、クラスの空気を壊したくなかったからだ。過去にも、似たようなことはよくあったし、何だかんだ、いつもクラス行事では中心に巻き込まれている。そうすることで、皆が楽しそうに笑っていれば、何よりだって気持ちがあるから、断れないんだよな。
それって、獅子座の性格なのか?
「この前、サークルの占い好きな子が言ってたんだけど、獅子座って空気を読むし面倒見が良いんだってさ」
「そうなんですか?」
「良くも悪くも、そうらしいよ。ほら、俺も獅子座だから、なんかわかる気がしてさ。俺が頑張ったら、まわりのやつが楽しくなると嬉しいっていうか」
俺と同じようなところがあることに驚いて話を聞いていると、淳之輔先生はさらに続けた。
「瑠星って、これって決めたことは貫くっていうか、頑固なとこあるだろ? そういうのも、獅子座に多いんだってよ」
占いは興味ないっていう割には、詳しく話す先生の顔はどこか嬉しそうだった。
知り合ってからまだ一ヵ月かそこらなのに、淳之輔先生は俺のことをどこまでも見抜いている。それって、俺のことをよく見てくれっているっていうか、ちゃんと話を聞いてくれてるっていうか。──先生こそ面倒見の良さを感じる。益々、先生には獅子座が似合っていると思えた。
星座占いを抜きにしても、こうして俺のことをわかってくれてるって感じられるのは嬉しいもんだな。
「占いって興味なかったけど、こういう偶然も嬉しいな」
「でも、星座占いって統計学ですよね?」
「そうかもな。まあ、占いどうこうはおいといてさ。それよりも、瑠星と共通点があるって知れたのが嬉しいんだよな」
少し照れたような笑いを見せた先生は足を止めると、「着いたな」といった。
辿り着いた店舗で手帳探しを始めたんだけど、その間中、嬉しいといって笑った淳之輔先生の顔と言葉がちらついていた。
共通点か。確かに、先生とは勉強を通じての関係だ。それ以外のことを、こうして外で話しているっていうのも、なんか新鮮なんだよな。
一ヵ月前、話が合わないかもとか、会話が続かないんじゃないかとか、心配していたのが嘘みたいだ。
「瑠星、赤いのもあるよ」
「無理です!」
「えー、可愛いと思うけど。俺らのラッキーカラーじゃん?」
「それって今日一日でしょ? それに、手帳に可愛さ求めてないです」
「頑固だな~」
「獅子座ですから」
きっぱり言うと、赤い手帳を持っていた淳之輔先生は小さく噴き出して笑う。
これって、からかわれてるだけだよな。でも、なんかこうしてくだらない言い合いするのって、ちょっと兄弟っぽいかも。先生のいってた、兄弟みたいな関係ってこういうことなのかもしれない。
「っていうか、淳之輔先生が持ってるやつみたいな、カッコいいのが欲しいです」
「俺の? うーん……瑠星にはもう少しポップなのが似あいそうだけどな。あ、これとかどう?」
淳之輔先生は赤い手帳を置き、その少し離れたところにあったものを手に取る。中はリフィルが差し替えられるシステム手帳ってやつで、カバーはデニム生地のようだ。
先生の革製に憧れつつも、同じようなのを選んだら真似をしたみたいになりそうなのが気にはなっていた。それに、俺が革製の手帳っていうのも背伸びをしすぎかもしれない。このくらいが丁度いいのかな。
手に取ってまじまじと見ていると「気に入った?」と尋ねられ、反射的に頷いていた。