勉強の休憩中、学祭の準備の話になった。
「瑠星のセンター楽しみにしてたのにな」
「東や谷川みたいなこといわないでください」
「ははっ、センターじゃなくても見に行くよ」
「いや、来なくて良いけど」
「行くから、頑張れ」
譲らない淳之輔先生に、さらにその後あったことを話してみた。あまり恋愛の話は楽しくないかなと思ったけど、意外にも機嫌良さそうな声で「青春って感じだな」と笑ってくれた。
「滝くんって、ラグビー部だよな?」
「そう、部活バカの滝です」
「それじゃあ、夏休みも部活が忙しくて会う時間少ないだろうね」
「かもしれないですね」
「んー、遊びに誘ったら乗るかな?」
首を傾げた淳之輔先生の台詞を理解できず、俺はつい眉をひそめながら「遊びに?」と訊いた。
「実はさ、俺がお世話になってる先輩が、ダブルデートしたいっていってるんだ」
「……ダブルデート?」
「その先輩、泉原が好きなんだけど、告白できずにもだもだしててさ。デートに誘うのに、ダブルデートをしたいって相談されてたんだ」
「それと滝は関係ないんじゃないですか?」
「いや、ほら。俺は粘着質女問題があるだろ?」
いわれて、確かにと納得した。
淳之輔先生が女の人を連れているのを目撃なんてしたら、突撃してくるかもしれないってことか。最悪、その先輩が暴力降られたら大変だよな。
泉原さんて、この前ちらっと会ったチャラそうな人だよな。先生と仲良さそうだったから、その先輩は橋渡しをして欲しいと思った。そんなところか。先生は指輪してるし。俺みたいに彼女がいると思って、頼んだのかもしれない。
「男友達連れていって、女の人一人じゃ、ダブルデートっぽくないってことですか?」
「だから、滝くんと美羽ちゃんに協力してもらえないかなって」
「なるほと。そういうことですか」
「俺と瑠星で、四人を引き合わせてさ」
「その後、俺たちは別行動すればいいってことですね」
「そうそう。瑠星は理解力があって助かるな」
嬉しそうに頷く淳之輔先生に、ちょっとだけ呆れた。
「先生ってお人好しですよね」
お人好しじゃなければ、お節介がすぎる人だ。
淳之輔先生は凄く驚いた顔をした。
そんな意外だといわんばかりの顔をされても困るんだけど。どう考えても、日頃からお人好しとしかいいようのない行動してるのに、自覚が無さすぎだろう。
「お人好しかな?」
「ですよ。無理なら無理っていえばいい事ですよ」
「まあね……でも、お世話になってる先輩だしな」
「だとしても、日頃からお人好しすぎだだと思います。教え子を部屋に上げたり、無償で勉強教えて料理するってのも、その極みですよ」
「そうか……」
淳之輔先生がお人好しだと感じるポイントをつらつらと述べる。すると、先生は少ししょんぼりとした顔をした。
なんか、犬耳が垂れていガッカリしているような幻が見えるんだけど!?
「いや、その、悪いっていってる訳じゃなくて……先生、疲れないのかなって」
「疲れるって?」
「……人に気を遣うの、疲れるじゃないですか。そりゃ、大学の先輩なら気を遣うのも仕方ないだろうけど」
「別に、気を遣ったりしてないよ。全部やりたくてやってることだし」
「そう、なんですか?」
「瑠星が迷惑だっていうならやめるけど」
いいながら、また淳之輔先生はしょんぼりする。
「俺は、迷惑なんてことはないです! むしろ、こうして会って勉強するの楽しみになってるし」
「なら、問題ないな。それに、無理は無理っていってるから心配するな。ほら、粘着女とかさ」
「それを無理っていえなかったら、終わってますよ!」
「はははっ、だな」
全く笑い事じゃない。
やっぱり、淳之輔先生は極度のお人好しな気がする。それに頼られやすいんだろう。何でもそつなくこなすし、人当たりが良い感じだし。イケメンだし。
その先輩が頼りたくなる気持ちも、わかる気がする。
それにしても、あの泉原さんに片思いしてるってのは気になるな。どこが好きになったんだろう。いやいや、人様、それも赤の他人の恋路に興味をもつとか、どんだけデリカシーがないんだ、俺は。──けど、あの泉原さんに片思いだぞ。
「協力してくれたら、先輩、きっと喜ぶよ」
「……滝のやつ、付き合い始めで不安だっていってたんですよね。もしかしたら、ダブルデートって、いい刺激になるのかも。美羽も、滝ともっと仲良くなりたいっていってたし」
「お、そうなのか。じゃあ……俺ら二人で、恋のキューピッドになっちゃおうか?」
「キューピッドって」
思わず噴き出して笑ってしまった俺は、淳之輔先生からしょんぼりした空気が消えたことに、心底ほっとした。
「どこに行くのが良いかな」
「淳之輔先生は、デートでどこに行ったことありますか?」
「俺?……映画とか遊園地? あと、水族館か」
水族館といわれて、一瞬、ドキッとした。
いや、俺とこの前いったのはカウントされないだろう。っていうか、どうしてドキッとしているんだ俺は。
「瑠星は?」
「年齢イコール恋人いない歴ですけど」
少しむすくれていうと、淳之輔先生は、慌ててごめんと口走った。
「じゃあ、付き合ったら行ってみたいところは?」
「それは……遊園地とか、あと、植物園もいいかも」
「植物園?」
「そんな混んでないだろうし、ゆっくり話すのにも良いかなって。写真撮るのも楽しいだろうし」
「なるほど、カメラが好きな瑠星らしいな。でも、泉原に花か……」
いわれて想像するが、泉原さんには場違いな気がする。それどころか、花の前で写真を撮る女の子に声をかけてナンパしそうじゃないか。──完全な偏見だけど、泉原さんに植物園はないな。
「遊園地は無難そうだな」
「夏は暑いですけどね」
「確かに……室内アトラクションが多いところが良いな」
「プールも併設してるところとか」
「付き合う前からプールはハードル高くないか?」
「あー、水着姿なんて見せられないって、美羽が怒りそうですね」
「先輩も無理だって泣き出しそうだな」
二人でデートプランを考えるのが楽しくなってきた時、スマホのアラームが鳴った。休憩時間の終了だ。