目次
ブックマーク
応援する
4
コメント
シェア
通報

第59話 デートの経験なんてないけど、行ってみたいところは色々ある

 勉強の休憩中、学祭の準備の話になった。


「瑠星のセンター楽しみにしてたのにな」

「東や谷川みたいなこといわないでください」

「ははっ、センターじゃなくても見に行くよ」

「いや、来なくて良いけど」

「行くから、頑張れ」


 譲らない淳之輔先生に、さらにその後あったことを話してみた。あまり恋愛の話は楽しくないかなと思ったけど、意外にも機嫌良さそうな声で「青春って感じだな」と笑ってくれた。


「滝くんって、ラグビー部だよな?」

「そう、部活バカの滝です」

「それじゃあ、夏休みも部活が忙しくて会う時間少ないだろうね」

「かもしれないですね」

「んー、遊びに誘ったら乗るかな?」


 首を傾げた淳之輔先生の台詞を理解できず、俺はつい眉をひそめながら「遊びに?」と訊いた。


「実はさ、俺がお世話になってる先輩が、ダブルデートしたいっていってるんだ」

「……ダブルデート?」

「その先輩、泉原が好きなんだけど、告白できずにもだもだしててさ。デートに誘うのに、ダブルデートをしたいって相談されてたんだ」

「それと滝は関係ないんじゃないですか?」

「いや、ほら。俺は粘着質女問題があるだろ?」


 いわれて、確かにと納得した。

 淳之輔先生が女の人を連れているのを目撃なんてしたら、突撃してくるかもしれないってことか。最悪、その先輩が暴力降られたら大変だよな。


 泉原さんて、この前ちらっと会ったチャラそうな人だよな。先生と仲良さそうだったから、その先輩は橋渡しをして欲しいと思った。そんなところか。先生は指輪してるし。俺みたいに彼女がいると思って、頼んだのかもしれない。


「男友達連れていって、女の人一人じゃ、ダブルデートっぽくないってことですか?」

「だから、滝くんと美羽ちゃんに協力してもらえないかなって」

「なるほと。そういうことですか」

「俺と瑠星で、四人を引き合わせてさ」

「その後、俺たちは別行動すればいいってことですね」

「そうそう。瑠星は理解力があって助かるな」


 嬉しそうに頷く淳之輔先生に、ちょっとだけ呆れた。


「先生ってお人好しですよね」


 お人好しじゃなければ、お節介がすぎる人だ。

 淳之輔先生は凄く驚いた顔をした。

 そんな意外だといわんばかりの顔をされても困るんだけど。どう考えても、日頃からお人好しとしかいいようのない行動してるのに、自覚が無さすぎだろう。


「お人好しかな?」

「ですよ。無理なら無理っていえばいい事ですよ」

「まあね……でも、お世話になってる先輩だしな」

「だとしても、日頃からお人好しすぎだだと思います。教え子を部屋に上げたり、無償で勉強教えて料理するってのも、その極みですよ」

「そうか……」


 淳之輔先生がお人好しだと感じるポイントをつらつらと述べる。すると、先生は少ししょんぼりとした顔をした。

 なんか、犬耳が垂れていガッカリしているような幻が見えるんだけど!?


「いや、その、悪いっていってる訳じゃなくて……先生、疲れないのかなって」

「疲れるって?」

「……人に気を遣うの、疲れるじゃないですか。そりゃ、大学の先輩なら気を遣うのも仕方ないだろうけど」

「別に、気を遣ったりしてないよ。全部やりたくてやってることだし」

「そう、なんですか?」

「瑠星が迷惑だっていうならやめるけど」


 いいながら、また淳之輔先生はしょんぼりする。


「俺は、迷惑なんてことはないです! むしろ、こうして会って勉強するの楽しみになってるし」

「なら、問題ないな。それに、無理は無理っていってるから心配するな。ほら、粘着女とかさ」

「それを無理っていえなかったら、終わってますよ!」

「はははっ、だな」


 全く笑い事じゃない。

 やっぱり、淳之輔先生は極度のお人好しな気がする。それに頼られやすいんだろう。何でもそつなくこなすし、人当たりが良い感じだし。イケメンだし。

 その先輩が頼りたくなる気持ちも、わかる気がする。


 それにしても、あの泉原さんに片思いしてるってのは気になるな。どこが好きになったんだろう。いやいや、人様、それも赤の他人の恋路に興味をもつとか、どんだけデリカシーがないんだ、俺は。──けど、あの泉原さんに片思いだぞ。


「協力してくれたら、先輩、きっと喜ぶよ」

「……滝のやつ、付き合い始めで不安だっていってたんですよね。もしかしたら、ダブルデートって、いい刺激になるのかも。美羽も、滝ともっと仲良くなりたいっていってたし」

「お、そうなのか。じゃあ……俺ら二人で、恋のキューピッドになっちゃおうか?」

「キューピッドって」


 思わず噴き出して笑ってしまった俺は、淳之輔先生からしょんぼりした空気が消えたことに、心底ほっとした。


「どこに行くのが良いかな」

「淳之輔先生は、デートでどこに行ったことありますか?」

「俺?……映画とか遊園地? あと、水族館か」


 水族館といわれて、一瞬、ドキッとした。

 いや、俺とこの前いったのはカウントされないだろう。っていうか、どうしてドキッとしているんだ俺は。


「瑠星は?」

「年齢イコール恋人いない歴ですけど」


 少しむすくれていうと、淳之輔先生は、慌ててごめんと口走った。


「じゃあ、付き合ったら行ってみたいところは?」

「それは……遊園地とか、あと、植物園もいいかも」

「植物園?」

「そんな混んでないだろうし、ゆっくり話すのにも良いかなって。写真撮るのも楽しいだろうし」

「なるほど、カメラが好きな瑠星らしいな。でも、泉原に花か……」


 いわれて想像するが、泉原さんには場違いな気がする。それどころか、花の前で写真を撮る女の子に声をかけてナンパしそうじゃないか。──完全な偏見だけど、泉原さんに植物園はないな。


「遊園地は無難そうだな」

「夏は暑いですけどね」

「確かに……室内アトラクションが多いところが良いな」

「プールも併設してるところとか」

「付き合う前からプールはハードル高くないか?」

「あー、水着姿なんて見せられないって、美羽が怒りそうですね」

「先輩も無理だって泣き出しそうだな」


 二人でデートプランを考えるのが楽しくなってきた時、スマホのアラームが鳴った。休憩時間の終了だ。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?