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第十一章 都での新たな挑戦

 明、星、雲の三人は密使と共に、一ヶ月かけて都・長安に到着した。都は彼らが想像していた以上に巨大で、人々で溢れかえっていた。しかし、その活気の中にも、どこか陰りが感じられた。


 三人は宮廷に案内された。現皇帝は寿王の甥にあたる徳宗だった。徳宗は父である代宗の死後、若くして皇帝の座に就いたばかりだった。


 徳宗は三人を謁見した。


「よく来てくれた。寿王殿下の息子とその友人たちだな」


 明は丁寧に礼をした。


「陛下、父からの言葉をお伝えします」


 明は父から預かった書状を差し出した。徳宗はそれを読み、深く考え込んだ。


「なるほど。寿王殿下の知恵は深い。民の声に耳を傾け、節度使たちと対話せよ、か」


 徳宗は明に言った。


「お前は父上に似て聡明そうだ。宮中に残り、私の参謀となってくれないか」


 明は一瞬迷ったが、父の言葉を思い出して答えた。


「陛下のお言葉、光栄です。しかし、まずは民の暮らしを知る必要があると思います。都の民がどう生きているのか、節度使の支配地域ではどうなのか、自分の目で見てから決めたいのです」


 徳宗は少し驚いたが、すぐに微笑んだ。


「確かに。それは良い考えだ。ならば、特使として各地を回ってきなさい。お前の友人たちも共に」


 こうして三人は都に滞在しながら、時には地方へ出向いて民の声を聞く任務を与えられた。


 明は政治の才能を発揮し、星はその武勇で人々を守り、雲は弓の腕前と知恵で二人を支えた。三人は互いの能力を補い合いながら、難局を乗り切っていった。


 しかし、宮廷内には彼らの活躍を快く思わない者もいた。特に宰相の路岩は、明たちの影響力が増すことを恐れていた。


「彼らは宮廷の秩序を乱す。特に、寿王の息子は危険だ。父親のように反逆の可能性もある」


 路岩は密かに彼らを陥れる計画を練り始めた。


 ある日、明たちは西方の節度使・李茂の領地に向かうよう命じられた。李茂は朝廷に対して反抗的な態度を示しており、徳宗は彼を説得するために明たちを送ることにしたのだ。


 三人が李茂の領地に到着すると、思いがけない人物と再会した。それは蒼天がかつて武術を学んだ師匠・無明だった。


「蒼天の息子か。よく成長したな」


 無明は星に言った。彼は李茂の軍師となっていたのだ。


「師匠! なぜここに?」


「長い話だ。しかし、今は警告しなければならない。お前たちは罠に嵌められている」


 無明の話によれば、路岩は明たちを李茂のもとに送り込み、李茂に殺させる計画だったのだ。そして、その罪を李茂になすりつけて、軍を派遣する口実にしようとしていた。


「我々は罠を回避し、かつ李茂と朝廷の間を取り持たなければならない」と明は言った。


 三人は無明の助けを借りて、李茂と直接対話する機会を得た。明は自分の父がかつての寿王であることを明かし、李茂の信頼を勝ち取った。


「寿王の息子とは驚いた。あの方は我々節度使からも尊敬されていた。民のために権力と闘った英雄だ」


 明は父から授かった政治の知恵を活かし、李茂と朝廷の間の誤解を解くことに成功した。李茂は朝廷への忠誠を誓い、代わりに地方の自治権を認めるという妥協案を受け入れた。


 この成功は徳宗の耳にも届き、明たちの評価は一層高まった。一方で、路岩の陰謀は露見し、彼は失脚した。


 三人が都に戻ると、徳宗は彼らを大いに称えた。


「お前たちの働きは素晴らしい。特に明、お前の外交手腕は見事だ。私の側近として仕えてほしい」


 明は今度は申し出を受け入れた。彼は徳宗の側近として、民のための政策を提案し始めた。星は禁軍の一員となり、雲は宮中で弓術を教えることになった。


 三人は定期的に手紙を書き、寿王たちに都での様子を伝えた。


 数年が経ち、明は宰相の地位にまで上り詰めた。彼の政策により、民の暮らしは徐々に改善され、節度使たちとの関係も安定してきた。


 星と雲も重要な地位に就いていた。星は禁軍の統帥となり、雲は女官の長として宮中で大きな影響力を持つようになった。


 そしてある日、三人は重大な決断をした。明が言った。


「我々は多くを成し遂げた。しかし、ここでの生活は本当の幸せをもたらしただろうか」


 星は頷いた。「都の生活は華やかだが、村での日々の方が心は満たされていた」


 雲も同意した。「両親のもとに戻りたい」


 三人は徳宗に辞意を表明した。徳宗は最初驚いたが、彼らの本心を理解し、惜しみながらも送り出すことを決めた。


「お前たちの功績は永遠に記憶される。いつでも戻ってきてくれ」


 明は最後の提案として、民の声を聞く「民聴院」の設立を徳宗に進言した。徳宗はこれを承認し、明の遺産として残ることになった。


 そして三人は、十年ぶりに故郷の村へと帰る旅に出た。

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