宝物のような思い出の水族館デートから、一週間ほどが経った。暦は七月に入り、一学期の期末テスト期間が間近に
部活動に励んでいる間は、さほど実感もなかったが、いよいよ受験が近づいてきているのだと、否が応でも思わされる。そろそろ、進路も本格的に考えなければいけない。一星は、志望大学の受験に向けて、剣道部の有無を確認したり、倍率などを調べるようになったが、ひとつ、気がかりなことがある。それは、風太の進路だった。
本来なら、他人の進路なんてどうでもいい話なのだが、一星にとって風太は特別だ。できることなら、風太と同じ大学へ進みたいと思っているが、どうやら今のままでは、とてつもない手違いがあったとしても、それを叶えるのは難しいようだった。一星と風太の成績は、それほどにかけ離れていたからだ。
高校を卒業しても、一星は風太のそばにいたい。一分でも一秒でも長く、だ。同じ大学へ行って、同じ剣道部に入って、今度こそ相棒として、切磋琢磨する関係になりたいという思いも強い。だが、やはり現実的に難しいだろう――と、これは烏丸に言われたことだった。
成績ったって、学校のテストで点数取ればいいんだから、真剣に授業受けて、テスト勉強すれば成果は出るはずだけどな……。
ただし、一星は諦めが悪い。それに、たとえ同じ大学には行けなかったとしても、風太が今、受験に向けて猛勉強しなければいけない事実は変わらないのなら、やる以外の選択肢はないのだ。そういうわけで、ここ数日間、一星は放課後も教室に残り、風太、太一と三人で、テスト勉強会をしている。
「ごめーん、一星くん! この問題、教えてもらえない? どうしても答えがわからなくって……」
「あぁ、これ……。この公式を使えば解けると思うよ」
「ありがとう……!」
テストが近づくにつれ、
以前、自宅で三人で集まったときも、彼は白河から電話がくるなり、勉強はそっちのけで長電話をはじめてしまうし、長電話が終わったあとも、すぐに休憩をしたがった。剣道では、とてつもない集中力を見せるのに、どうして勉強になるとああも飽きっぽくなるのか、一星は不思議でしようがない。
「だあーッ、もうやだ! 飽きた! 一旦、休憩しようぜ、休憩!」
休憩をして、三十分ほど経った頃。そう風太が言って、教科書を閉じた。一星は問題集を解きながら、ちら、と風太に目をやったが、すぐにまた手元に目を戻す。
「飽きた、はナシ。もうちょっと続けろ」
「そうだ、そうだー。っていうか、さっき休憩したばっかじゃん。風太は飽きるの早すぎなんだよ」
「えぇー……」
太一にも叱られて、風太はしょぼくれながら、一度閉じた教科書を、再び開いた。放課後、教室は七時半までは使用してよいことになっていて、テスト前になると、一星たちのように、居残り勉強組が急増する。
この時期になると、図書室も勉強する場所としては人気があるが、あそこは私語厳禁なので、風太のようなタイプには不向きだ。飽きただの、休憩だの、と三十分ごとに騒いでいたら、おそらくすぐにつまみ出されてしまう。一方で、教室は自由だ。私語をしようと、テスト勉強の合間に、黒板で先生の真似ごとをしようと、飲食をしようと、誰にとがめられることはない。
ただし、教室での勉強会にも、問題があった。連日、こうして教室に残っていると、女子グループによる勉強会がなぜかどんどん増えていって、まるでカフェのようににぎやかになるのだ。今日は一段と多いようで、教室は、ほぼ満席状態。中には、クラスメイトではない人の顔もあって、十分に一回は、声をかけられる。おそらく、風太の集中力が持続しないのは、それもあった。
「おれ、
そう言って、風太は財布を持ち、教室を出ていってしまう。ポケットに手を突っ込み、上履きのかかとを踏んで歩く、その後ろ姿を見送りながら、一星はため息を
当然といえば、そうなのだが、一星としては、少しだけショックだった。休みの日に一緒に水族館に行って、ホラー映画を観て、夜ふかしをして、彼をベッドまでお姫さま抱っこで運んでも、寝顔に「好きだ」と
「ったく……」
そう呟き、ひとまずはテスト勉強に戻る。だが、ほどなくして、太一に声をかけられた。
「ねぇ、一星さぁー」
「ん……、なに?」
「あのさ……、ちょっと
太一がノートを指差して言う。彼も今、一星と同じ問題集を解いている。どこか、わからない問題があるのかもしれない。一星は頷き、身を乗り出して、「いいよ、どこ」と、彼のノートを
『ひょっとして、風太と付き合ってんの?』
時間が止まったような気がした。一星はゆっくりとノートから太一へ目を移す。だが、太一はにこっと笑みを浮かべ、その一文を消しゴムで消すと、また、なにかノートに書き出した。そうして、それを一星に見せる。
『前に話してた、一星の好きな人って、風太だよね?』
ノートには、そう書いてある。すぐには反応できなかったし、太一の顔も見れなかった。なぜ、どうして、いつから彼は、そのことに気付いていたのだろう。まさか、風太が話すはずもない。一星は、バクバクと急激に高鳴る心臓の鼓動に、
ここで、本当のことを彼に話してしまっていいものか、否か。それを考えたのだ。だが、太一は一星と無理やり視線を合わせるように
「やったね、当たりだー」
「なんで……。太一、それ……、いつから知ってたんだ……?」
驚きと緊張のあまり、否定するのを忘れた。ついでに声もうまく出なかった。だが、太一にはちゃんと聞こえたようだ。彼は得意げに笑みを浮かべて答える。
「いつからって、ずうっと前からだよ」
「ずうっと、前から……」
「だって一星、前にオレに話してくれたじゃん?」
「そ、そうだっけ……」
「なんだ、忘れちゃったんだ?」
太一は、
まさか……。あれだけで、俺が風太を好きだってことに、気付いたっていうのか……?
太一は、普段から
「でもさ、一星やるじゃん。風太と付き合っ――」
「おぉい……ッ!」
一星は、慌てて太一の口を手で
「いてえし」
「……悪い」
「いや、オレもごめん。つい、口が
「ちょっと……、場所変えようか」
「いいねぇ、ふたりで抜ける? 屋上でも行っちゃう?」
太一が声を