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ミクロスの街【ノア視点】


 ミットライト王国の国境を超え、丸々三週間はかかる。ミクロスの街。


 巨大風車が有名なミクロスは観光地や商人で賑わっている。


 路地裏で男二人が話し合っている。その一人はフードを深く被っている。もう一人は青年で歳は二十代後半ぐらいだろう。


 フードを深く被っている男は薬瓶を青年に渡そうとしていた。


 やっと、見つけました。


 ……私は、とある筋から情報を聞きつけ急いでミクロスの街に向かった。街に着くなり走り回ったり聞き込みをしたりしてやっとのことで目的地まで辿り着いた。

 着いたというよりも探したという方がいいのかもしれませんが。


「そこまでです」


 私は、薬瓶を持っている男の腕を掴んだ。


「うわ!?」

「な、なんだ!!?」


 二人はいきなり登場してきた私に驚いている。

 当然の反応ですね。


 今はそれどころではない。私の目的はフードの男とその関係者を捕らえること。


「こ、これは俺のだ!! あんたなんなんだよ」


 私の目線が薬瓶に集中していたことに気付いた青年は、護身用のナイフを私に向ける。


 こういうことははじめてなのでしょう。とても震えている。


 それでは私に敵いませんよ。ですが、度胸は買いますが。


「……私はただの旅人ですが、丁度この薬瓶を探していましてね」


 皇帝からの命令というのは言わないことにしときましょう。

 彼らの神経を刺激して、逆上してしまったら大変です。ついう・っ・か・り・殺してしまいそうで。


「この薬は、病んでいる心が晴れるそうではないですか。どうでしょう。私にも分けて貰えますか?」

「あ!? そうはいかねぇ。悪いな、依頼されたのしか用意してないんだ」


 男は鼻で笑い、私の手を強引に振りほどいた。


「……そうですか」


 私は残念そうに肩を落とした。


「……では、その後の話は牢屋で聞きますね」


 私は柔らかく微笑んで、パチンッと指を鳴らした。


 ーーその瞬間


 二人が立っている地面に魔法陣が現れたと思ったら地面から突風のような勢いのある風が吹いた。


 それがあまりにも強風で二人は飛ばされ、民家の壁に体がめり込んだ。


 二人は血の泡を吐きながら白目を剥いている。

 骨が砕けるような音が聞こえましたが、死にはしないでしょう。皇帝の命令は生きて捕らえることなのですから。生きてさえいればいいんです。


 手加減って難しいですね。


 さて、この薬がワクチンの失敗作だったならどこで入手してるのか聞き出さないといけないが、今は気絶してるからしばらくは無理でしょう。


 フードの男はきっと闇市場の商人。

 その闇市場に薬を売り込んでるのが違法組織『暗黒の大地』。

 私の調べでは、『暗黒の大地』は人身売買を中心に活動していました。

 ところが、ある日を境に売るのを人ではなく、薬に変えた。

 それがイアン様が飲んだという薬。

 また、魔術士の子供が居なくなるという事件もある。

 それを無くすために貴族に養子として出されているのにも関わらず、貴族の養子になった子も行方がわからなくなっている。


 その事件に大きく関わりがあるのが『暗黒の大地』。

 魔術士の子供を攫って、売りに出すのではなく、実験材料にされてるという。

 誘拐される時期が決まって結界が弱まった時。


 それを警戒した王太子殿下と国王が一番信頼出来る人物をソフィア様の護衛にした。


 ソフィア様が誘拐されて、魔力が暴走したらって考えたら気が気じゃないですからね。


 そのことは表立つ前に解決させなくちゃいけないんですが、なかなか足取りがつかなかったのですが……。


 イアン様の猫事件がきっかけで組織がわかった。


 表立ってしまったら国王どころか皇帝の信頼が失われてしまう可能性がありますから。


 その違法組織のボスがカース・コールド。


 イアン様の猫事件でボスの名前が確定した。

 あの時の話し合いにソフィア様も加わるとは思ってませんでしたが。ソフィア様とも関係がなくはないが、危険だというのは殿下もわかっていたはずなのに。


「ノア殿が思ってるほどソフィア嬢は弱くない」


 と、どこか信頼しきってるような言葉を言われてしまえば、何も言えまい。


 殿下が信じてるというのに私が信じなくてどうするんです。



 イアン様の話、キースの話を聞いて確信に近づいた。

 調べれば調べるほど、カースの痕跡のようなものがある。

 死んだ人間だからそんなことは有り得ないだろうと思ってましたが、死体が消えたという不可思議なことは私は知らなかった。


 まだ生きているのなら、カースに間違いない。


 死んだことにしてしまえば、行動がしやすいですからね。


 まぁ、とりあえず私の仕事は終わりましたからあとは騎士団に任せましょう。


 念のために街の外に騎士団を待機させて正解でした。

騎士団の制服は目立つので平民の格好をしてもらっています。観光客を装っているので違和感がないと思います。


 私は路地裏を後にした。



 ーーーーーーーー


 騎士団に二人を引き渡した私は、デメトリアス家の庭師であるクラレンスさんが近くの小さな村出身だったことを思い出した。


 今もたまに帰ってるみたいですけど。

 クラレンスさんには病気持ちの息子がいる。医師を呼ぶにしてもかなりのお金がかかるので大金を稼ぐためにデメトリアス家の庭師として住み込みで働いている。


 クラレンスさんは遺跡が大好きだが、遺跡探検に行く余裕はない。たまに遺跡の本を読んで欲求を満たしてる。

 私はたまたまクラレンスさんが休憩中に読んでるところを見かけて話しかけたら意気投合しました。


 私も遺跡が大好きですから。よく、休日に遺跡を探検してます。

 意外な趣味だな。似合わないって言われますが、自分が好きならそれでいいと思ってますから気にしてません。

 クラレンスさんは私と趣味が合う人。

 たまに時間が許す限り、遺跡のことを語り合ってます。



 確か、今は帰ってるんでしたよね。


 挨拶していきましょうか。


 そう思い、小さな村へと向かった。



 ーーーーーーーー



 村に向かった私は衝撃のあまり言葉を失った。


 クラレンスさんの家を訪れたら、灰になりかかってる死体が三人もいたのですから。


 死体からは少量の魔法が感じられ、黒い炎が薄らと見える。


「これは!?」


 これは、呪術の一種、幽魔ファントムだ。

 でもそれは禁術になっているはず。


 一体なぜ……?


 デメトリアス家の庭師が殺されたということは……。


 これは偶然?


 いいえ、そんな偶然なんて考えられない。


 と、なると……。


 急いでデメトリアス家に向かわなければ。


 嫌な予感しかしない。



 私はギュッと唇を噛み締めた。唇が切れ、血が垂れる。

 もう少し早くきていれば、死ななかったかもしれないのに。


 なんとか出来たかもしれないのに。


 後悔しても、もう遅い。


 私が今やるべきことはクラレンスさんの死を嘆くことではないのだから。


 ……早く、カースを捕まえなくては。


 犠牲者をこれ以上増やしてはいけない。




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