本棚に魔法陣。それに魔法陣の中で身を寄せあっている五人の少年少女。私の隣にはやせ細った少年。
そして、この状況を作り出してるであろうカースさん《張本人》が私を見ている。
なんなのよ、この部屋。
……嫌な空気。
私、この部屋嫌いだ。
なんか、懐かしくて、とても恐ろしい。
うまく言葉では表せないけど、多分私はこの部屋を知っているんだと思う。
カースさんは魔法陣の中にいる子供たちを指しながら口を開いた。
「ソフィア様はご存じないのですか? ここにいる子供たちを。あなたと同じだというのに」
おな……じ……?
「なるほど。頭がキレるというわけではないのですか、まぁいいでしょ。そっちの方が都合がいい」
都合がいい?
一歩下がろうとしたら、少年が再び私の腕を引っ張った。
「え!!? ふぎゃっ!?」
魔法陣に近付くなり私の腕を放したと思ったら、背中を押された。
バランスを崩した私は魔法陣の上に盛大に転んでしまった。と、同時に変な声が出て恥ずかしい。
状況がよくわかないのに、これからなにをはじめようっていうの!?
私は少年を見上げると、少年は冷たい瞳で私を見ていた。
いや、睨んでいるようにも見える。
「…………」
少年はなにも言わずに、カースさんの方を向くと跪いた。
あの少年は、私のことを羨ましいと言った。
それは私が貴族だから?
いいや、貴族だけじゃなさそう。
きっと、この少年少女たちと私との共通点があるはず。
私は、あの子たちとの共通点を必死に見つけようとする。
貴族、甘いもの、親がいない、魔術士、属性、魔力。
親がいないとか?
いや、それならもっと多いはず。
それなら魔術士? まさか『魔術士の子供』!?
確か魔術士の子供は貴族に保護されるけど、保護される前は? それに貴族に保護されたとしてもその貴族が優しい人たちとは限らない。
まだ保護されてない子たちもいるはず。
この子たちは保護されていない子たちなのだろうか。
「魔術士の子供、なのですか。ここにいる六人全員!?」
確信は無いけど、共通点はそれしかなさそう。
魔術士の子供を集めてなにするの?
カースさんは背を向けて玉座の後ろにある水晶玉を触り、回すと奥の本棚が横にズレ、白い壁が見える。
白い壁には魔法陣。それも、地面に描いてある魔法陣と同じだった。
「カース様!? それは待ってください! 言われた通りにやりました。ですから、この子たちは」
跪いていた少年は立ち上がり、右手は少年少女を指し、もう左手は自分の胸に当てながらカースさんの行動に驚いて声を上げた。
カースさんは不敵な笑みを浮かべた。
「ご苦労様。マテオ殿」
「騙したのですねっ!!」
マテ……オ……?
え。マテオって、マテオ・ベネット!?
攻略対象者の一人にして、魔術士の子供。ベネット伯爵夫妻に養子として迎えられた。
だけど、ベネット夫妻は彼に愛情を注ぐどころか、奴隷のような扱いをしていた。
そして、人を信じなくなった彼は心を閉ざしてしまった。
私と同い年のはずなのに、こんなにガリガリでボロボロな服を着て……。
それなのに私は、綺麗なドレス。毎日手入れを念入りにしている髪に健康的な肌(全部侍女がしてくれている。主にアイリス)。
同じ魔術士の子供で貴族の養子になってるのに、こうも違うんだから。
そりゃあ、羨ましくもなるか。
「教えてください! カースさんはこれからなにをしようとしているんですか?」
マテオ様は私を睨みつけた。
「……終わりだ。なにもかも」
「終わり?」
「カース様は、魔術士の子供の魔力を利用して深紅の魔術士を人工的に創り出そうとしているんだ」
「創り出す? それって禁忌じゃ……」
っということは、死ぬの!?
多分、魔法陣は魔力を吸うためのもの。
魔力を吸われれば、弱まるか、死ぬだけだ。
禁忌になっている理由は、大量の命が一瞬にして消えるから。
その奪った魔力もどこかに消えてしまう。なので、創り出すことは出来ないはず。
たくさんの人の命を犠牲にしても、なにも生み出すことが出来ないと判断し、禁忌になった。
それが何故、無駄だとわかっていてもやるの?
創り出す方法がわかったとか!?
地面の魔法陣から生暖かい風が吹き出した。
カースさんを見ると、カースさんはずっとブツブツと何かを言っている。
きっと、詠唱をしているんだろう。
「ソフィア様と引き換えにこの子たちを解放してくれる約束だったんだよ」
引き換えって……。
よっぽど私に恨みがあるんだな。
彼の瞳は最初に見た時から生きるのを諦めてるような気がしてたけど、多分人生に疲れたんだ。
生きる希望がないから生気を感じられなかったんだ。
ーーまるで、前世の自分を見ているよう。
前世の私は「早く死にたい」「なんで産まれてきたんだろう」そんな後ろ向きなことしか考えてなかった。
その現実から逃げるようにゲームにハマった。
今思えば『クリムゾン メイジ』という乙女ゲームが前世での、『生きる意味』だったのかも知れない。
それに気付く前に死んじゃったけどね。
今はソフィア・デメトリアスとして転生して、生きることに執着している。
死にたいなんて思う暇がないぐらい、どうすれば死亡フラグを回避出来るのかを考えてる。
私は、この世界に転生して『諦めない』というのを学んだ。誰かを守ろうとする強い意志も。
魔法陣が紫色に光り輝きだし、地面からものすごい熱風が吹き荒れる。
吹き飛ばされそうなぐらい強い風が容赦なく私の体に攻撃してくる。
それはこの魔法陣の中にいる子供たちもそうだろう。
その子供たちを気にかける余裕が今の私には無い。
息……できないっ!!
苦しい……っ!?
あまりにも苦しくて瞳から涙が零れた。
「わ……たし……は、諦めない!! みっともなく、足掻いてやるんだからぁぁ!!!!」
諦めるものか。絶対に、生きて屋敷に帰るんだ!!
こんなところで死んだりしない!
私は手のひらを魔法陣に置いていたら、手のひらを中心に魔力が掻き消されていく。
「…………はぁ……はぁ」
魔法陣から光が消える。
予想外な出来事にカースさんは声を上げる。
「これは!? どういうことだ!!?」
私は息を整えながらゆっくりと立ち上がった。
「私の属性『無』なんですよ。だから、魔法を無力化出来ます」
あっ、どうしよう。
ちゃんと立てない。
視界がボヤける。
私は立ってられなくなり倒れそうになっていたら誰かに肩を支えられた。
「……あ」
なんで?
「持ち堪えてくれてありがとう。ソフィア嬢」
「アレン……殿下……」
私を支えてくれた人はアレン殿下。それによく周りを見るとイアン様にノア先生、キースさんとオリヴァーさんもいる。
なんで、ここに?
「キミの魔法石にノア殿がちょっとだけ魔力を注ぎ込んだらしいんだ。キミのピンチに反応して瞬間移動魔法が発動し、ノア殿がキミの近くに行けるようにって。それに便乗して着いてきたんだ」
い、いつの間に。