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いざ、アシェル城へ


「お待ちしていました。こちらです」


 アシェル帝国のアシェル城。


 瞬間魔法を使って城内に入った私とノア先生を待っていたのは宰相らしき人物。


 見た所、私とノア先生がいるのは客間のようだったが、床には巨大な魔法陣が。


 瞬間魔法はどこにでも飛べる訳ではなく、魔法を使う本人の魔力を込めた特定の場所にしか飛べないらしい。


 宰相は物珍しそうにキョロキョロしてる私と目が合うと優しく微笑んだ。


 なんか、恥ずかしい……。


 茶髪で肌が黒い。瞳は黄土色でツリ目気味。黒縁メガネがとてもよく似合っている。


 彼は、キャメロンという名らしい。


 どうやら私とノア先生が来るのを待っていたようだ。


「こちらです」


 キャメロンさんは歩き出した。



 案内されてる途中ですれ違う使用人たちが軽くお辞儀をしてくる。


 使用人たちとすれ違う中、私は緊張して動きが固くなってしまう。


 トラウマとは実に厄介なもので、知り合いでも挨拶を交わしただけで『この人は本当に本人……?』と、疑い深くなってしまう。


 だけど私は決めつけたくないし、過去は過去だと割り切りたい。


 感情を押し殺して何事も無かったかのように振る舞っている。


 でも何故か、心配そうに見てくるのよね。

 この前もアイリスに「無理しないで良いんですからね」って言われてしまった。


 二年前の私よりはボーカーフェイスは完璧(?)なはずなのに。


 アイリスにはわかってしまうのだろうか。


 知り合いでも緊張してしまうのに、知らない人に挨拶をされるのは、慣れてないのも重なって余計に緊張してしまう。


「大丈夫ですか?」

「あっ、はい。大丈夫です」

「そうですか」


 おどおどしてる私に気付いたノア先生が心配そうに顔を覗き込んで来た。


「大丈夫ですよ、私が着いてますから。あっ、それとも護衛騎士が居た方が安心ですか?」

「ち、違うんです! ただ……」

「ただ?」

「慣れて、ないので」

「そうでしたか」


 今日の謁見は、オリヴァーさんも同行しようとしてたけどノア先生が拒んだ。


 清々しい笑顔で大量の書類をオリヴァーさんに渡してたっけ。


 オリヴァーさんは青ざめて若干涙目だった気もするのだが。


 ノア先生は自分の仕事の残りをオリヴァーさんに押し付けたように思うんだけど、きっと気のせいだよね。


「着きました。謁見の間です」


 キャメロンさんが立ち止まり、扉を開けようと手を伸ばした。


 謁見の間、皇帝が訪問者と会うための部屋。


 目の前にある白い扉は、金色の縁取りで装飾がなされている。


 この扉の向こうに皇帝がいる。そう思うと、緊張して頭が真っ白になる。


 大丈夫、落ち着け。


 そう自分に言い聞かせる。


 ーーそして、


 扉がゆっくりと開かれる。


 豪華に飾られた天井や壁、それに調度品。

 床は大理石ではなく、木細工のようだ。


 玉座やその後ろのタペストリーは二体の妖精が銀色の糸で刺繍されている。


 周りの壁が白なだけに玉座とタペストリーが真っ赤なので、ものすごく目立つ。


 そんな赤色を見ても発作が起きないのは、きっと聖なる乙女のおかげだろう。


 玉座前に立っている青年が見えるが、ちょっと遠くて顔がよく見えないが、あの方が皇帝陛下なのだろう。


 謁見の間に入り、皇帝陛下の前まで行くと、一斉にしてお辞儀をしたので私も慌ててお辞儀をした。


「よく来た」


 その声は、とても柔らかい。


「顔を上げよ」


 皇帝陛下の言葉に従ってゆっくりと顔を上げる。


 金色の長い髪、ねずみ色の瞳。パッと見で三十歳後半に見えるが、皇帝陛下の年齢は五十歳。

 三人の子に恵まれている。


 次期皇帝陛下になる方は第一皇子のカルロ様だろう。


「うむ。ノア、ご苦労だった。お前はもう下がっていいぞ」

「はい」


 ん? ちょっと待って、ノア先生を下げるの?


 私はこの後どうすればいいの!?


 ど、どうしよう……。オドオドしていたら、皇帝陛下が顔を近付かせてきた。が、突然のことに身動きが取れずただじっと皇帝陛下の美しい顔を見つめるしかない。


「すまない。そして、礼を言う」


 皇帝陛下は公爵家の娘に頭を下げる。


 それは、あってはならないこと。


 王よりも偉い皇帝なら、尚更だ。


「君を巻き込みたく無かったのだがな。本当にすまない」


 謝っているのって、カースさんのこと?


 なにも皇帝陛下が自ら謝ることではないでしょう。


 今、謁見の間にいるのは私と皇帝陛下だけ。


「私は、巻き込まれたなんて思っていません。……カースさんは純粋すぎたんです。純粋な人ほど一度知ってしまった汚れは綺麗にすることが出来ずに余計に汚してしまうんですよ」


『もし、あなたのような皇帝陛下の元で働いていたら、カースさんは汚れを知らずに済んだかも』と、そんな言葉を言いそうになり、思い留まった。


 私にとってはフォローのつもりだけど、責めている言葉にも聞こえてしまう。


「……ありがとう」


 ニコッと微笑んだ皇帝陛下は、五十歳には見えない。

 ……若く見える。


 あっ、そうだ。マテオ様のことを聞くんだった。


 ……でも私から聞いたら失礼だよね。


「ソフィア殿」

「え! は、はい!」

「さっきから渋い顔をしているが、考え事かな?」

「め、めっしゅ……っ!?」


「滅相もない」と応えようとしたら噛んでしまった。

 消えてしまいたい……。


 皇帝陛下を前にして考え事なんて、失礼すぎるでしょ。

 しかもすぐに気付かれるって……。


 時間を戻してほしいとつくづく思う。


 皇帝陛下は私を咎めることはせず、考え事をしていた理由を聞いてきた。



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