「……あの、マテオ様のことで」
「ん? ああ、ソフィア殿の屋敷に滞在させた理由が知りたいのかな?」
「は、はい!」
敵視してる人を身近に置くのは、危ないのをわかってるはずだ。それなのに、滞在させるのには理由があるはずだから。
最初は生きた心地がしなかったけどね。
だって、殺気全開だったもの!!
マテオ様が滞在すると聞いた時は、そんな大袈裟に考えてなかった。
嫌われてるのなら、あんまり関わらなければいいだろう。
私が余計なことして関係が今よりも悪化したら嫌だし。
そんな軽い気持ちだったんだ。
それなのに、
いざ一緒に生活してみると食事やすれ違う際に睨めつけられるなら、まだ可愛い方だ。
庭に落とし穴を作り、さらにその穴に尖った刃が天を向いて見えた時にはゾッとした。
オリヴァーさんが居なかったら私は死んでいたわ。
そこまで病んでいたとは思っていなかったのは、私の責任だ。
もっと深く考えるべきだったんだ。
「マテオ様は私を恨んでいました」
「ソフィア殿はマテオ殿を見てどう思った?」
「そ、それは、マテオ様は私を敵視していましたけど、ちゃんと向き合っていれば心を開いてくれます」
マテオ様は悩みや不安を誰にも話さなかった。いや、話せなかったんだ。
私はその辛さをよく知っている。
話したところで、自分の考えを全否定され、相手の考えを押し付けるんだ。
余計に不安になって、人間不信になる。大袈裟かもしれないけど、心が弱ってる時にやられると病みやすくなってしまうんだ。
私も前世で体験してるからよくわかる。
マテオ様は誰にも言えない孤独さから私に八つ当たりしていた。
「私がマテオ様と同じ境遇だったら、この世界を恨んでいたかもしれません。でも、温かさを知ってるんです。いつだって……私をフォローしてくれる人たちがいます。だから、マテオ様もその温かさを知ってほしいと思ってます。それは私の願望であり、そうなってほしいと、気持ちを押し付けるつもりはありません」
私はこの世界が好き。
でも、その気持ちを押し付けることはしたくない。
嫌いでもいいの。世界には、いろんな人がいるけどその中でも温かい人がいるというのを知ってもらいたい。
「……ソフィア殿の屋敷に滞在させて良かった。念の為に護衛騎士を傍に置いていただろ?」
「……?」
皇帝陛下は優しく笑う。
あれ、これって……。
「ソフィア殿なら、マテオ殿の気持ちを一番理解してくれると思ったんだよ。ノア殿の日記にも事細かくソフィア殿のことが書かれてるからな」
「に、日記、ですか!?」
「ほら、これだ」
って、それって……。
皇帝陛下は私に古い本を見せてきた。
その古い本には、とても見覚えがあった。
以前、ノア先生が落とした魔導日記だったからだ。
でもそれは、持ち主以外の人が触ると魔法が発動するんじゃなかったっけ。
あの時は、魔法は発動しなかったんだよね。
私の属性にも関係してたとは思うけど。
「大丈夫。魔法は一時解除してある」
私は皇帝陛下から日記を受け取ったが、勝手に読んでいいのだろうかと思ったが拒むことは失礼なのかもしれない。
そう思った私は、日記を戸惑いながら読んだ。
そこには、私の魔法のこと。日常など、詳しく書いてあった。
それがちょっと度が過ぎてるのならストーカーになるんだろうなって思ったが、ノア先生がそんな人じゃないことに安堵した。
でもなぜ、こんなことを詳しく書く必要が?
どうしてだろう……。
そう思ってちらりと皇帝陛下を見ると目が合った。
「気になるか?」
「い、いえ。なんていうか……」
もしかしたら、魔術士の子供だから。
危険な存在だと思われているんじゃ……。
そうじゃなきゃ、こんな詳しくなんて。
「どうして、お見せになられたのかと……」
「ソフィア殿と一回話したかったんだ。マテオ殿を君の屋敷に滞在させたのは君が居たからだ。マテオ殿の気持ちを一番理解出来るのは同じ境遇の人だからな」
「で、ですが!? 私は彼とは違います。人に恵まれています」
「そうだ。だからこそ、人の温かさを知っているし、冷たさも傷付く恐怖も知っているだろう? 傷付いた心に寄り添うことが出来るんだ」
「わ、私はそんな」
「そうか? 全部、この日記に書いてあるんだがな」
うぅ……。
そんなこと言われても。自分では分からない。
戸惑っている私に皇帝陛下は
「前皇帝のようにはなりたくないのだよ。少しでも反抗すれば死刑だなんて、あってはならないと思っている。カース殿のように恨みにとらわれてる人を少しでも減らしたいんだ」
恨み、か。
そういえば……ゲームでは、私も恨みにとらわれていたのかもしれないな。
闇に呑まれてしまったから。
もしも恨みが闇ならば、私は感情をコントロール出来るのだろうか。
私の今後の課題ね。
多分、いやきっと……死亡フラグを折れる鍵になるかもしれない。