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いつまでも頼ってはいられない

 アイリスにイアン様が私のことをどう思ってるのか聞いてみろって言われたのだけど……。


 連絡先知らないのよね。


 困ったぞ。


 通信用の魔導具は、前世の言葉で表すなら携帯のようなもの。


 ただ、携帯のように番号を入力して電波を飛ばすのではなく、自分の魔力を魔導具に注いで繋げる。


 それには相手の魔力も通信用の魔導具に注いで溜めて置かなければならない。


 連絡先交換の変わりにお互いの魔導具に魔力を注ぐという仕組みだ。


 まぁ、私は魔法石の魔力を魔導具に注いでるだけだけど。


 今まで魔力が無いものだと思ってた私だけど、無属性が邪魔をして魔力を使おうとすると、無力化になってしまうらしい。


 魔法石の魔力を少しずつ使っている。


 それは前と変わらない。


 今の魔法石は両親の魔力ではなく聖なる乙女の魔力。


 その魔力を少しずつ使っている。


 それはいつまでも続かないし、無くなったらどうすればいいんだろうって不安になる。


 だけど、いつまでも頼ってはいられない。


 自分の魔力を使えるようにしていかないと。


 話を元に戻して、イアン様に連絡出来ないのならノエルに連絡しようと思う。


 イアン様の屋敷に居るからね。


 〈姉上!?〉

「ノエル。久しぶり」


 通信用の魔導具が小さく光を放ち、ノエルが立体化して現れた。


 ノエルは慌てた様子だ。


 〈 ……お元気そう、で良かった〉

「うん。私は元気だよ」


 少し大人っぽくなったな。

 顔付きが変わってる。


 可愛らしいのは変わりないけどね。


 そういえば、二年以上も連絡してなかったんだっけ。


 それじゃあ心配もするか。


「連絡出来なくて、ごめんなさい」

 〈 あっ……、それもあるのですが、僕は頼りないのでしょうか?〉

「なにかあったの?」

 〈 ……っ!? これじゃあ僕はなんのために留学したのかわからない〉


 いきなり真剣な顔で聞いてくるから、なにかあったのだろうかと、聞き返した。


 ノエルは辛そうに俯き、呟いた。


 その声を私は聞き取れなくて首を傾げていると、ノエルは寂しそうな笑顔で「なんでもありません」と言った。


 一体、どうしたのだろうかと心配になるが本人がなにも話そうとしない以上、どうすることも出来ない。


 〈 それよりも急に連絡してきて、どうしたんですか?〉

「えっ。あっ、そうなの!! イアン様に話したいことあったんだけど」

 〈 イアン様?〉


 イアン様に聞きたいことがある。


 そこにノエルを巻き込んでしまうのは申し訳ないけど。


 このやり方しか思いつかなかったんだもん。


 ……許して、ノエル。


 内心謝りながらもイアン様の連絡先がわからなくてノエルに連絡したことを話す。


 ノエルは苦笑して、イアン様を呼んでくると言われた数分後。


 ノエルとイアン様の話し声が聞こえた。


 姿が見えると、イアン様が私を見た。


 〈 なんの用?〉

「……あ、あの。私とイアン様ってどういう関係なのかと」


 おどおどしながら聞いたら、イアン様は唖然としていた。イアン様の隣にいるノエルも驚いたように目を丸くしていた。


 〈 いや、待て。いきなり何言ってんだ?〉

「だ、だって、私……餌付けられてたような気もするし。それにこの指輪だって、私のことを守るため。イアン様は私のことを妹として見てるんだろうけど」


 言いかけてやめた。私はイアン様にどう思われたいんだろう。


 妹として見てくれてるなら、それで良いと思う。でも試されてるのだと思うと自分はどうすればいいのだろう。


 とても不安になる。


 〈 ……指輪?〉


 ノエルは驚きながらも口を開く。

 イアン様と私を交互に見た。


 〈 それって〉

 〈 うわっ。よ、余計なこと言うなよ!!〉

 〈 むぐっ!?〉


 ノエルがなにかを言いかけた。が、その先の言葉を聞くことはなかった。


 イアン様が慌ててノエルの口を塞いだからだ。


 二人が仲良くて、ちょっと安心。

 じゃれつくなんて、心を許せる相手同士なんだろうな。


 なんだか羨ましい。


 〈 ……で、ソフィア様は俺との関係が気になったから連絡したのか?〉

「はい、そうなんです!」

 〈 はぁ。俺とお前は師弟関係だ。俺は、お前の剣術の師匠なんだから〉


 イアン様は呆れたようにため息をついた後、ピンと人差し指を上に立てた。


「師弟……」


 ああ、そっか。師弟関係かぁ。


 〈 師匠が弟子を守るのは当然だろ〉


 そんなこと思っても見なかったけど、普通に考えればそうなるか。


 ああ、そうか。もしかするとイアン様が与えてくれたチャンスは弟子としてイアン様の信頼を得ること。


 もしそうなら、背中を預けられるような存在になれということなのでは!?


 剣よりもお菓子作りが好きなイアン様。


 だけど、本当は剣も好きなのを知ってる。


 苦手なのは、周りがイアン様の心に寄り添ってあげてなかったから。


 男なら剣。お菓子作りなんて女々しい趣味はありえないと否定されてたから辛くなって追い込まれてたんだと思う。


 だって、私に剣術を教えてくれるイアン様はとっても活き活きしてたもの。


 それにとてもわかりやすい教え方。ただ、私の運動神経が悪くてなかなか上達しなかったけど。


 私には想像が出来ないほどの努力をしてきたからだと思う。


 わかりやすい教え方をする人って、その内容の知識が十分あると思うから。


 最初は、剣術が嫌いだと思ってたんだけど……。

 分からないものだね。


「私、イアン様が師匠で良かったです」


 微笑むと、イアン様は顔を赤くしてそっぽを向いた。


 〈 な、なんだよ。気持ち悪いな。俺、これからやらないといけないことあるから〉

「はい。貴重なお時間をありがとうございます」


 私は一礼した。


 師匠かぁ。


 魔術の師匠がノア先生で、剣術の師匠がイアン様になるのかな。


 〈姉上〉

「ん?」

 〈今度は……、今度こそは僕を頼ってくださいね〉

「……え?」


 イアン様の姿が見えなくなると、ノエルが切羽詰まった声で言ってきた。


 私は辛そうに笑うノエルに、なにを言ったらいいのかわからなかった。




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