悩み……、なにを話そうか。
悪夢を見てることに関しては様子見でいいだろう。
なら、これかな。
「……私、私ね。太らないのよね」
真剣な話だったのに、ノエルは困惑している。
私にとっては今後に関わる重要なこと。
〈ふ……ふと? すみません。うまく聞き取れませんでした〉
「太りたいのに、太らないの」
〈姉上は、それが悩みですか?〉
「そうよ!」
〈涙を流すほど?〉
「うん!」
涙を流したのは、違う理由だけど。
実際、生きるか死ぬか(アレン殿下ルートの死亡フラグを回避できるかどうか)の瀬戸際なのだから。
ノエルは口に手を当てて俯いた。
若干、肩が揺れてるけどどうしたのだろう……?
「ノエル?」
〈〜〜っ!?〉
「ねぇ、どうしたの? 体調でも」
〈す、すみません。その……、真剣な顔をしてなにを言うのかと思ったら……つい〉
その声はとても震えていた。
これは、必死に笑いを堪えてるな。
そんな笑うことかな?
「酷い……。悩みを打ち明けたのに」
〈すみません、拗ねないでください。僕はてっきり寝れないことかと思ってたので拍子抜けしてしまって〉
頬を膨らまして不機嫌な声で言うと、ノエルは笑いを堪えながらも謝罪してくれた。
なんだか複雑。
「確かに、寝れないことも悩みだけど、もう少し様子見しようと思って。マテオ様から貰ったやつもありますし」
〈マテオ様? ああ、話には聞いていますよ。人付き合いが不器用な方ですよね〉
「そうなの。最初はギスギスしてたけど、今は普通に話せるかな」
〈それは良かった!! 心配してたんです。その……〉
「大丈夫だよ。もう、あんなことはしないだろうから」
ノエルが口篭ったので、言いづらいことだと思った。
多分、私を危険な目に合わせたからだろう。
でも殺されかけたことは知ってるのかな?
まぁ、ノエルがなにも言わないから、私は気にしないことにしよう。
〈それで? なにを貰ったんです?〉
「
〈あの置物ですか〉
「知ってるの?」
〈はい、悪夢を見ないように考えられた置物だとか。昔、悪夢を見るのは悪魔のせいだと考えられていまして、悪魔を寄せ付けないように作られたとも聞きますね 〉
「悪魔……悪夢だとナイトメアかしら?」
〈それは分かりませんが、妖精のイタズラとも言われてますよ〉
「そうなのね。今夜、悪夢を見ないことを祈るわ」
〈はい。悪夢を見たら、すぐに僕に相談してくださいね?〉
「わかってるよ。……ありがとう、ノエル」
〈いいえ〉
この世界でも、何かがあると誰かのせいにしたがるのね。
日本だと妖怪……。
架空の存在で、実在はしないと思ってるけど……、当時は信じてる人が多かったみたいなのよね。
〈ところで姉上。太りたいというのは?〉
「え!? ああ、そうそう!! 私、太りたくてクッキーとかよく食べてるんだけど全然太らないのよね」
〈クッキー? 見せてもらっていいですか? 〉
「え、ええ。アイリスに用意させるわ」
なんだろう?
疑問に思いつつも、私はアイリスにクッキーを用意するように頼んだ。
その数分後、アイリスが用意してくれたクッキーをノエルに見せる。
〈このクッキーは貰い物ですか?〉
「よくわかったわね。その通りよ」
〈その差出人はアレン殿下ではありませんか?〉
「すごい! どうしてわかったの!?」
〈いや、だって……。こんなことするのはあの人しかいないと思いますよ〉
「こんなこと?」
〈太らないのはこのクッキーのせいです。痩せたい人向けに考えられた菓子ですよ。高級なので貴族しか手を出せません。ここ数年、そのクッキーを殿下の配下が買い漁ってるって聞きましたからね〉
……え?
このクッキーを食べてるから、太らない?
そういえばよくクッキーを持ってきてくれるなとは思ってたけども。
殿下は私が太りたいのを知っている……?
知っててなにも言わないの……?