目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

幻影樹


 ここはどこなのだろう。


 目を覚ますと霧がかかった不思議な場所に横たわっていた。


 その場所には見覚えがある。


 だけど頭にモヤがかかったようにぼんやりしていて、なかなか思い出せない。


 体が重くてうまく動かせられないが顔は動かせるみたいなので、ゆっくりと動かそうとした。


 だが、動かすと頭痛がするので思うように動かせない。


「また会ったのぉ。どうじゃ? 気分は」

「……???」


 私の視界に入ってきたのは『聖なる乙女』だった。


「覚えとらんか。ん? 記憶と夢が混ざり合ったようじゃな」

「~~っ!? 〜〜っ」


 あれ、声が出ない。

 どうして!!?


 声が出なくて焦っているとが私の頬に触れ、顔を覗き込んできた。


「なるほどのぉ。ちと封印術が強すぎたようじゃな。お主の心の変化で封印術の魔法陣が変わろうとしておる。惜しいのぉ。いいものを持っているのにお主は全く使いこなせていないとは」


 がゆっくりと目を閉じると、頬が温かく感じたと思ったらさっきまでの頭痛が嘘のように痛みが引いていく。


 鉛のように重かった体も軽くなった。


 が離れると私は上半身を起こした。


「あ、ありがとうございます。シーアさん」


 私は迷わずの名を呼んだのだが、自分の言葉に驚いた。


 私は彼女の名を知っている?


 そういえば以前、ノア先生が私とは一度会っている……と言っていたっけ。


「ほぉ。ワシの名を覚えとるのか」

「さっきの、どういう意味ですか?」

「知ってどうするんじゃ」

「どうするって、知りたいから聞きました。どうするかはその後に決めれば良いと思います」

「……甘いのぉ。その甘さが命取りになるということを覚えとくことじゃ。こうしてまた会えたのはなにかの縁じゃな。特別に教えてやるぞ」


 そういうとシーアさんは、霧の中に消えていった。


 私は慌てて立ち上がりその後を追う。


「あ、あの?」

「うむ」


 シーアさんは大樹の前まで行くと腕組みして何かを納得したように頷いた。


 この樹がなんだというのだろう。


「お主はこの樹が何に見える?」


 突然の質問に困惑する。


 何って……。


 大樹を見上げると、薄らと光り輝いていた。

 微かに透き通るような音色も聞こえる。


 ……不思議な木。


 イメージするとしたら、


「泡沫……、もしくは淡い夢」


 そう、今にも消えてしまいそうな……そんなイメージなのよね。


「なるほどのぉ。この樹は、世界樹といってな。世界の中心みたいなものじゃ。また、この世界樹は幻影樹げんえいじゅとも呼ばれているんじゃ」

「幻影樹?」

「その由来はのぉ。人の心の闇を反映させてくれるんじゃ。泡沫と思ったのなら、お主の心は迷いがあると世界樹は伝えておるのじゃ」

「迷い? 幻影ってまぼろしですよね。それで幻影樹と呼ばれてるのか分からないのですが」

「反映と言ったじゃろ? 光が反射するのと一緒じゃよ。お主の心が世界樹を通して表しておるのじゃ。見る者によっては、世界樹の印象が変わる。一時のまぼろしじゃ。だから、幻影樹なんじゃよ」


 ……なぜそんな話を?


『封印』に関係しているのか。


「その幻影樹と、封印はどういう関係なのですか?」

「その封印の刻印がこの樹の魔力を使ってるんじゃよ。もっともその刻印は肉眼では見えんがな」


 肉眼では見えない封印?

 そもそも何を封印してるの。


「封印されてるのはお主の生まれ持った属性じゃ」


 私が封印のことについて詳しく聞こうとしたらシーアさんが口を開いた。


 生まれ持った属性? でも、私の生まれ持った属性は『無』なはず。


 訳が分からなくて頭がパンクしそう。ちょっと頭痛くなってきた。


「……もう時間のようじゃな」


 シーアさんが苦笑すると、視界が歪んだ。


 〜〜っ!!!?


 ダメ!!


 待って、まだ……。


「嫌! まだ話したいことがあるのに」


 おぼつかない足取りのまま歩み、シーアさんの両腕を掴んだ。


 シーアさんは予想もしなかったのだろう。驚いた声を上げているのが聞こえた。


 だが、目の前が真っ暗に染まっていてシーアさんの顔が見えなくなっていた。



 ーーーーーーーーーーーー


「シーアさん!?」


 勢いよく上半身を起こした私は、周りを見渡した。


 そこは、見覚えのある部屋。というよりも自分の寝室だった。


 ……ああ、そっか。夢かぁ。


 夢だったのが少し残念だけど、悪夢じゃないだけマシなのかも。

 最初は悪夢っぽいのを見た気がするが……。あんまり覚えてない。


 頭がボーっとする。


「……なんだったんだろ」


  夢の内容があんまり覚えてないし、思い出せない。


 なにか自分にとって大切なことを教えてくれた気がするんだよなぁ。


 そんなことを考えていると目の前に黄色いドラゴンが現れた。


「やはり覚えとらんかぁ。覚えとらんのも、ちと虚しいのぉ」

「…………え」


 そのドラゴンは黄色の光に身を包み、手のひらサイズでとても愛らしく思えるけど、その喋り方とその声はどこかで聞いたことがある。


「ええぇぇえええええっ、!?」


 混乱しすぎて、絶叫してしまった。


 その後、駆けつけた侍女たちに必死に言い訳をしたのは言うまでもない。





この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?