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第八章 世界樹の精霊

精霊だったの!?

 この状況はどう説明すればいいのだろうか。


 寝室でテーブルを挟んで向かい合わせに座っている私と光っているドラゴン。


 そのドラゴンは手のひらサイズだからソファに座らず、テーブルに座っている。


 自分の目の前に置かれた紅茶を興味津々で見ていたが狼狽えていた。


 こんな小さな体だとティーカップの中に注がれてある紅茶は飲みづらいのだろう。


「よろしかったら、スプーンを」


 この世界はストローが無い。かといってマドラーは飲み物をかきまわす為の棒だから役に立たない。


 元々このマドラーは侍女たちと相談して作って貰った。

 この世界にはマドラーは存在しないのだから。

 木を削ってそれっぽくしてもらっただけなんだけどね。


 だったら、スプーンしかない。念の為、アイリスにティーセットを用意するついでにスプーンも頼んどいて正解だった。


 アイリスはティーセットを用意したらすぐに寝室を出ていったので、今は私とドラゴンしか居ない。


 奇妙なことに私以外はドラゴンの姿が見えてないらしい。

 私の驚いた声に侍女たちが何事だろうかと寝室に来た時、必死に言い訳をしていたというのに。


 アイリスもドラゴンの姿が見えないから二人分のティーセットと聞いて首を傾げていた。


 言い訳が大変だったわ……。


 そんな様子をドラゴンは楽しそうに眺めているし、このドラゴンはなんなの?


 どこかで聞いたことある声なのよね。


 ドラゴンは私とスプーンを交互に見たあと首を横に振った。


 いらないのだったらどうやって飲むんだろうか。


 そう思って観察していると、ドラゴンの姿が変わった。


「え、聖なる……乙女?」


 ドラゴンは人の姿に変わった。


 金髪ロングのねずみ色の瞳。ポンチョのような白のローブを羽織っていて、白とオレンジのミニワンピース。

 腰には革ベルト、長めのブーツを履いている。


 そこにいたのはゲームで何回も見た『聖なる乙女』だった。


 でもね、


「……あの、テーブルに座るのは止めてほしいのですが」



 そう。『聖なる乙女』は紅茶の入ったティーカップを片手に足を組んで優雅に飲んでいる。

 しかもテーブルに座って。


「ん? おおっ、すまんな」


 そう言って、ソファに座り直す。


「やっと魔力が回復して姿になってのぅ。テーブルに座ってたのを忘れとった」

「人型?」

「ワシは世界樹の守護精霊じゃ。さっきのドラゴンの姿が本当の姿なのじゃが、人と話すとなると不便でのぉ。時々人型の姿をしておるのじゃ」


 それははじめて聞いた。


『聖なる乙女』って、精霊だったの!?


「……やっぱり不便じゃ。やるかのぉ」


 立ち上がったかと思ったら私に近付き、額に軽く人差し指を当てる。


 なにをしてるんだろうと思っていたら突然、頭の中で知らない光景が……。


 いや、知っているのかもしれない。


 ただ、忘れていただけで。


 それは多分、記憶。私が『聖なる乙女』と会って話した時の記憶だ。


「思い出したか?」

「……はい。シーア・ヴァネッサさん」


 シーアさんは満足そうに微笑み、再びソファに座った。もちろん、向かい合わせで。


「それで、えっと……」

「夢の続きが気になるのか? お主の中の封印のことじゃろ?」

「はい。そうです」

「そうじゃなぁ。無属性は、お主が作り上げた属性じゃよ。本来の属性が封印されておる」

「本来の、属……性??」


 私の属性が封印?


 なんで封印なんか……。


 もしかして危険な属性とか?


「……闇属性とか?」

「察しがいいのぉ。その通りじゃ」


 そうか、闇属性……。


 だから殿下が結婚を申し込んだのね。私が危険人物だから。

 結婚すれば監視がしやすいからね。


 例え、私の属性が暴走したとしても腕利きの騎士が止めてくれるものね。

 属性の中で闇属性はとても危険なのだから。


「……魔術士の子供だから、貴重価値が高いから、殿下が結婚を申し込んだのかと思ってたけど……違う理由がありそう」

「貴重価値のぉ。なんで価値があるのか、疑問に思わんのか?」

「え」


 言われてみればそうだわ。

 なんで価値があるの?


「お主ら魔術士の子供は魔力の栄養源なんじゃよ」

「言ってる意味が分からないのですが」

「……簡単に言えば、魔術士の子供の命を犠牲にして人工的に魔法石を作っておるのじゃ。だから、貴重価値が高い。それは一部の人にしか知らない事実じゃがのぉ」

「じゃあこの魔法石も?」

「いや、それは天然じゃ」


 魔術士の子供の命を使って魔法石を作る。


 なによそれ……。魔術士の子供私たちはそんなことの為に生まれてきたんじゃないのに。




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