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人とは、実に興味深い生き物【シーア視点】


 初めは興味本位だった。


 精神だけでに迷い込む人間は今まで居なかった

 んじゃ。


 まぁ、迷い込んだ理由はすぐに見当が付いたんじゃがな。


 それは、ソフィア彼女の封印に関係していた。


 封印には、世界樹の魔力が使われている。封印が弱まれば魔力を補おうとしてに強制的に送られる仕組みとなっている。


 最初に迷い込んだ時はまだまだ青臭いガキだと思ってたんじゃが……。


 二回目に迷い込んだ時は、少しだけ雰囲気が変わっていた。


 あの子なりに思うところがあったんじゃろう。


 これならばちょこっとだけ話しても良いだろう。


 ただ……ちょっと残念なことに、無属性を使いこなせて無かったということ。

 難しい属性ではあるが、使いこなせてくれなくては困る。


 ワシの魔力を与えてやったというのに。


 ソフィアの魔力は闇属性と一緒に封印されているんじゃ。

 だからこそワシの魔力を使うたびに無属性を使い慣れさせようとした。




 無属性は使うたびに慣れるもの。

 ただ、精神で強さが左右するから魔法陣を発動する時は威力の加減が難しいんじゃ。


 そこがわかってないのもあって、使いこなせていないんじゃろう。


 まぁ……ワシの魔力を一瞬で消し、から連れ出されたことは想定外だったが。


 いくら無属性があるからといって、ワシの魔力はそう簡単には消えない。


 流石じゃ。あやつらの血を引くだけある。


 それならば、闇と無の属性を融合出来るのではないか?

 可能性は、ほぼゼロだが、無属性を作り出したんじゃ。


 いけるかもしれない。


 融合すれば、闇の魔力を無の魔力が浄化する。

 それをうまくコントロールさえすれば、闇の魔力が暴走しないで済むはずじゃ。


 ……あの赤子が大きくなったものじゃ。


 今から十二年前。世界樹の魔力を分けてくれるように頼みにきた夫婦がいた。


 母と思わしき女性は大事そうに赤子を抱いていたが、その赤子は虫の息。


 よく見ると、体が魔力に耐えられず悲鳴を上げているようだ。


 生きているのが不思議なぐらいじゃ。


 その夫婦は、ワシに助けを乞うていた。


 乞うているだけならワシはなにもしなかったのだが、世界樹の精霊であるワシに「……私達の未来を世界樹に捧げます」と、言ってきた。


 夫婦が言っている未来とは、『命』ということ。命を捧げる。

 そういうことだ。


 それだけの覚悟があるということだろう。


 だが、ワシは軽々しく命を犠牲にするのは好ましく思わないんじゃ。


 人は愚かで、何度でも過ちを犯す生き物じゃ。


 当然、首を横に振った。


 夫婦は絶望した表情だった。どうせその赤子は助からん。

 時には諦めることも大事じゃろう。


 そんなことを言ったら赤子の母親が大事そうに抱えていた赤子を父親に預けた後、怒りに任せてワシ目掛けて靴を投げつけた。


「聖なる乙女だかなんだか知らないけど、私達には譲れないものがあるんだよ! つべこべ言わず、この子の命を助けろ!」


 もちろん、その靴は受け止めた。しかし、ワシに向かって靴を投げるとは……。


 怒るところなのだろうが、そんなことでいちいち怒っていたらいずれは取り返しがつかないことになる。


 あの母親のように感情に身を任せて怒りをぶつけるなど、『人間』のようなことはワシはするつもりはない。


 その気持ちはわからなくはないがな。


 荒ぶっている母親を父親が宥めている。


 父親はワシを見る。その瞳はなにかを決意しているようだった。


「俺達の魔力はどうだろう? 大魔術士の称号を持っている。普通の魔術士よりは魔力が大きいはずだ」


『称号』など、爵位みたいなものではないか。


 国のために最善を尽くし、成績を残せば、手に入るものであろう?

 まぁ、魔力は高いだろうが……。

 そんなもの、なんの役にもたたん。


 だが、


 今にも死んでしまいそうな赤子を見る。


 息は荒く、熱を帯びている。赤子を包み込む黒いオーラ。

 なるほどのぉ。赤子の属性は『闇』。


 また珍しい属性じゃ。


「ワシに靴を投げた代償は大きいぞ」


 ただの気の迷いじゃ。赤子の未来を見てみたくなったのは。


 ワシは世界樹の魔力を宿した宝珠を夫婦に渡した。


「これを使いこなせるかどうかはお主ら次第じゃ」


 ワシに出来ることは魔力を渡すことと、死を遅らせること。


 夫婦は深々とお辞儀をして、帰って行った。


 ……程なくして、魔力を和らげる薬を研究したというのを風の噂で聞いた。


 しばらくしてから、世界樹の元に新たな魔力が宿った。


 それは、あの夫婦の死を意味していた。


 ワシはきっかけを与えることしか出来なかったというのに……。


『譲れないものがある』その言葉の意味はワシはまだ理解していないが、夫婦が命を懸けて守りたかった者は必死に自分と向き合おうとしておる。


 人とは、実に興味深い生き物じゃ。


「シーアさん?」


 心細そうなその声に我に返った。


 テーブルを挟んで向かい合わせにワシとソフィアは座っている。


 ソフィアは不安そうな表情をして、ワシの様子を伺っているようだ。


 ワシはクスリと笑い、


「さぁ、始めるぞ。契約を」



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