「心を強く持つことじゃ」
「?」
シーアさんがそんなことを言うのでキョトンとしていると、シーアさんはティーカップをテーブルに置いてソファの背もたれにもたれかかった。
「無属性の特徴は、気持ちの変化で強さが変わる。イメージしたものを魔法陣に変えられるんじゃ。その魔法陣は発動した本人のイメージを忠実に再現するんじゃよ」
「再現……」
それは心当たりがあった。
カースさんとの戦闘で私が思い描いた魔法陣がそうだったから。
「ワシがここにいるのだって、お主が連れてきたからじゃ」
「?? 私、シーアさんの両腕を掴んだだけですが」
「そう、掴んだんじゃよ。ワシの魔力を無効化にされた瞬間、引っ張られてしもうた」
「え!? すみません、私、そんなつもりじゃ」
「わかっておる。だがのぉ、責任はとってもらうぞ?」
「……っ!?」
責任。
ああ、そっか。
やってしまった責任は取らないといけないよね。
私はゆっくりと頷いた。
「よし!! 早速はじめるぞ」
シーアさんは嬉しそうに立ち上がると、氷魔法で作った小型の槍をテーブルの上に置いた。
どうすればいいのだろうと、シーアさんと槍を交互に見ていると、
「なんじゃ? 早くせんか」
と、急かされる。
早くしろと言われても……。
自害しろと?
死亡フラグを回避するために自分なりに頑張ってきたけども、死亡フラグからは逃れられなかったのかな。
責任を取ると言ってしまったから、後戻りは出来ない。
腹を括るしかないということだ。
私は震える手で槍を握り、首に当てた。
どうしよう。涙が出てきた。
「待て、なにをしておる?」
「なにって……、自害しようとしてますが」
シーアさんが勧めてきたことじゃないの?
「いや、ワシとの契約を結んで欲しくてのぉ。契約には互いの血が必要なのでな。さっき言ったじゃろ?」
いや、なにも言ってないでしょ。
というか、え??
「契約ですか!!? いやいやおかしいですよね」
『聖なる乙女』との契約って何!!?
聞いたことないんだけども。
「そうじゃろ、そうじゃろ。ワシと契約するのは恐れ多いじゃろ。気にすることはないぞ。ワシも契約するのは初めてなんじゃ」
「なにも言ってないんですが、……契約初めてって」
ゲームでもそんなストーリーは組まれて無かったし、シーアさんはなにを考えてるの?
そもそも契約ってなに!!?
「契約をして、どうなるんでしょうか?」
「ワシはお主が気に入ったんじゃ、お主が望めば力を貸そう」
「なんのために?」
「愚問じゃな」
「闇属性があるからですか? 危険だか……」
シーアさんは自分の唇に人差し指を押し当て、「静かに」とでも言ってるようで私は思わず口篭ってしまった。
だって、瞳があまりにも真剣だったんだ。一瞬ドキッとしてしまった。
「こうは考えぬか? 闇属性を使いこなせば怖いもの知らずじゃ。幸いにも無属性がある。その二つの属性が合わさればまた違う属性に変えられる」
「そんなこと出来るのでしょうか?」
「……出来る出来ないじゃない。やるんじゃよ、やらなければお主の未来はないじゃろう。将来は王城で死ぬまで監禁生活になるだろうしのぉ」
そうよね。今は封印されてるけど……。
いつどこで解けるか分からない。
だからこそ余計に、殿下の求婚の意味が分からない。
「あの……、契約じゃなくて御加護じゃないんですか?」
「まぁ、そうじゃな。お主の場合は、加護だと難しいんじゃ」
「難しい?」
「ワシの加護は、属性に刺激を与え、形に変えるんじゃ。だがお主の場合は、そうはいかん。封印が解かれる可能性があるのでな」
「形に変える?」
「お主も見たことあるじゃろ? 呪文なしでも本人のイメージした魔法を」
そうだ。呪文や術名を言わなくても普通に出していた。一方で魔導具を使った魔法は言葉にしていた。
それが、『聖なる乙女』の御加護。
「……わかりました。私はあなたとの契りを結びます」