……ルカリシア
しかし、この個有能力の行使が確認されている生物種は、ルカリシアにおいて極めて少数であることも事実である。人類の変異体である黒狼は例外であったとしても、古い文献を紐解く限りにおいて、太古のルカリシアの空に君臨したとされる“白き翼”なる存在による個有能力の行使は、ほぼ疑いの余地がない。
この“白き翼”に関する資料は驚くほど少数であり、一方、中世の文献において“白き翼”を指すと思しき文献を、私は自らの目で確認した。これらのことが指し示す帰結を考えると、空恐ろしささえ感じてしまう。
さて、主旨が逸れてしまったが、個有能力が人類に計り知れない叡智をもたらしたことは読者諸氏のよく知るところだ。我々の文明は個有能力を持つがゆえに発展したと評価しても差し支えない。
※註釈……本文中には、現代において差別用語となる語句が含まれるが、原文のまま記載した。