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アシュリーの密かな支え

「――ほれ。カフェイン抜きココナッツミルク2倍入りだ」

「ありがとうございます、マイク。……もうこんな時間ですか」


 甘い芳香が鼻をくすぐるのが感じられて、続けて目の前にマグカップが差し出されてくる。

 特大サイズのマルゲリータが描かれたマイカップを受け取りながら〈ギア〉の時刻へ目をやったアシュリーは、長いため息を吐き出しつつ、椅子の背もたれに体重を預けた。


「なあ、アシュリー。そろそろウチSPにも随行支援機R.A.I.、入れたらどうだ。記録やら報告書ぐらい、機械に任せたって手抜きにはならんだろ。それか、チームを頼れ。全部、おまえがやってたら、つぶれっぞ」

「気遣いに感謝します。僕なら大丈夫ですよ。それに、支援機はなんていうか、ずっと傍にいられると……」

みたいで嫌、か。まあ、そこんとこは俺も同感だがな。でもよ、書類仕事でメシの時間を取られるよりはいいだろ?」

「ちゃんと食べますよ?」

「デスクに詰め込んだエナジーバーを、だろ」


 太く、剛毛な眉の片方をぐいっと吊り上げながら、古参のクルーが、磨りガラスのボトルを呷る。

 深緑色の内容物を、顔色ひとつ変えずに摂取するマイクに偏食を指摘されるのは何故か癪に感じたが、これも自分のことを思ってのことだろうから、素直に「食堂に行きます」と降参のポーズを取ってみせる。


「だったら新米ルーキーも誘ってけ。あれでけっこう、しょげてたぞ」

「飴と鞭メソッドは、ダメでしたか」

「いきなり腹を殴るのは、さすがに俺でも、せんぞ?」

「……反省します」

「じゃ、俺はブランドンの野郎と格納庫にいるからな。おまえもちゃんと休んどけよ? ギプス、取れんくなるぞ」

「はいはい、お母さんママ

「こいつめ」


 キャッチャーミットさながらの巨大な手が、アシュリーの髪をわしゃわしゃして、その隆々な背が踵を返す。

 そんなヘアを直す気も起きない自分に気が付き、チームリーダーは苦く独りごちた。


「……こんなところ、クルーに見られたらいけませんね」


 マイクとは新人威療士の頃からの古馴染みだ。

 田舎から出て威療士を志したアシュリーにとっては、冗談抜きに親のような存在だったが、チームリーダーである以上、いつでもシャキッとしておく必要がある。


「さて。デレクとブランチに行きますか。……と、その前に」


 思いっきり背伸びをし、アシュリーは腕のコンソールに手を伸ばした。

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