作戦はシンプルだ。
異常事態が発生したことを伝える、特徴的なサイレンを鳴らしながら、
まず間違いなく
(まずはレンジャーを放りだそっと)
運転席でハンドルを握っている〈ユニフォーム〉の男性。面識のがない以上は仕方ないが、こちらを見る目が驚愕に見開かれていた。
それだけなら、まだいい。自分を知らない威療士はいくらでもいる。
(あきらめんなッ! レンジャーがあきらめたら、“
蒼白な顔に色濃く滲み出た、諦観。それがリエリーの苛立ちを募らせる。
おおよそ、クルーが涙幽者の牙に掛かったのだろう。焦りや不安は、理解できる。
が、『万事休す』のような表情は、いただけなかった。
「ドライバー! さっさと跳べッ! 〈ユニフォーム〉があるだろッ!」
「だ、だが、クルーが後ろに――」
「――だから邪魔ッ!」
「
無人になった運転席へ
旧式とはいえ、涙幽者用に設計された車体だ。ユニーカへの反動が大きく、刹那、リエリーはバランスを崩しかける。
狙ったように車体後部から咆哮が轟き、面に圧縮された大気の壁が迫る。
「――――」
「卑怯なヤツは嫌われるんだよッ!」
重力に任せ、敢えて重心を傾けることで、涙幽者の
(重傷か。はやく“
威療士装備を持たない今の自分では、得意の高速〈ドレスコード〉ができない。車内の威療士から〈ユニフォーム〉を借りる算段だったのだが、この様子だと期待できそうになかった。
瞬間、膨れ上がる
「――――」
かろうじて原形を留めていた、救助車。
その車体が、膨張――したように見せかけて、次の瞬間には弾け飛んでいた。
「……欲張りッ!」
そうして、リエリー同様、風の
その異様に長い左右の腕の先、サバイバルナイフさながらの長い刃渡りから滴る、赤い雫。
完全に覚醒した涙幽者が、両のカギ爪に二名の威療士を突き刺したまま、こちらへ、白濁したその双眸を向けていた。