「――チーム〈HT〉のレンジャー2名は、一命を取り止めたそうだ」
カシーゴ・
緊張感で張り詰めていた室内の空気がわずかばかり緩み、安堵の波が威療士たちの輪に広がっていた。
そんな一同の反応を確かめ、ハリスは背に腕を組んだまま、淡々と言葉を継ぐ。
「諸君らの奮闘の結果だよ。素早く正確な救命活動が、命を救う。まさに、われわれカシーゴレンジャーの真価が発揮されたケースと言えるね。諸君を改めて誇りに思う。私からは、以上だ。……チーフ・ハスキーラ」
「かしこまりましたわ。本事案の子細は、当該救命活動を担ったレンジャーの回復を待って聞き取りを実施する予定です。それまでの期間、レンジャーの皆さまはスペクターの〈クラスシフト〉に充分、ご留意くださいませ」
「オペレーター・チーフ」
「何でしょう、レンジャー・ゴメス」
「チーム〈HT〉リーダーの証言では、今回〈ミーミル〉による脅威判定はレギュラーだったとのことで。率直なところ、救命活動中の〈クラスシフト〉に対応するのは、限度があります。この点について、ネクサスとしてはどう対処するつもりかお聞かせ願いたい。クラス2のスペクターは、留意でどうにかなるものではありませんよ」
「ええ、ごもっともですわ。その件に関して現在、統合データベース〈ミーミル〉の管理を担う
「揺らぎ……?」
「僭越ながら、わたくし、『次も専門用語で茶を濁すつもりなら、枝部長会議に諮る』と言ってやりましたの。よろしくお願いしますわね、ネクサスマスター?」
「ほむ。これは、いつも通りの展開というわけだね。私に、拒否権はないからね」
室内に冷ややかな失笑が広がる。ハリスお得意の自虐ネタだ。
「とはいえ、だ。レンジャー・ゴメスの提起は正しい。スペクターは、われわれの都合を待ってはくれないからね。当座の対応とはなってしまうが、全てのレンジャー諸君には追加の〈ユニフォーム〉を支給する。併せて、〈トランキライザー〉の投与上限値を引き上げることを枝部長権限で承認した。追って詳細を通知する」
「――ちょっとまって」
着席していた一同の目が、一斉にこちらへ向けられる。その中には、露骨に疎む目も混ざっていたが、いつものことだった。
それらは無視し、出入り口近くの壁際に背を預けていたリエリーは、真っ直ぐハリスだけを見据えて、発言許可を待った。
「何かな、レジデント・リエリー・セオーク」
「
「相手はネクサスマスターだぞ。どういう口の利き方してんだ、あのレジデント……」
「レンジャー・セオークの
「さっきだって、チーム〈HT〉のリーダーを引きずり出してたよね……」
会議室のそこここから挙がる、囁き声。なるべく表情を変えないまま、リエリーは拳を握り締めてやり過ごす。
倦んだ囁きのさざ波を静めたのは、意外な相手の一言だった。
「――カシーゴレンジャーってぇ、鉄の結束って聞いてたんだけどぉナ。これって、どうゆうリンチなん?」
(……さっきのスナイパー)
声の主は、部屋の前方、最前列のテーブルに腰掛けていた、
深紅のメッシュが入った腰まである長髪を豪快に梳き、後ろに跳ねさせた少女は、挑発的な目でハリスを見上げる。
「手厳しい指摘だね、レンジャー・アイサ・サイラス。せめて、性根が素直だと言ってくれると嬉しいんだが」
「フーン、ハートのボイスがダダ漏れなんだぁ」
「……さて、紹介が遅れてしまったな。諸君、知っている者もいると思うが、こちらはエウコリン・レンジャーネクサス所属のアイサ・サイラス君だ。恒例のレンジャー交流の一環として、われわれカシーゴレンジャーに出向している。今度は自己紹介してくれるね、レンジャー・サイラス」
「仮上官のネクサスマスターに言われちゃ、しょうがないナ。ハイハーイ。わたしはアイサ・サイラス、19歳。そこの“風遣い”に次いで、この国で二番目に若いレンジャー。そそ、ネクサスマスター・ハリス?」
「何かな」
「出向の条件、吞んでくれたのよネ」
「本人にはまだ言っていないんだが……」
「じゃあ、わたしが言ってあげる。――リエリー・セオーク。わたしと組んでくれるわネ?」
「……はあ?!」