――いつもと変わらない幸せな一日の始まりだった。
朝食を済ませ、妻に出発のキスをし、二人の子どもに笑顔で見送られながら出勤する。
ありきたりで、けれど深い満足感に満たされる、朝のひととき。
――だから、気づかない。
「――おはよう、KIA。今日も
『おはようございます、マスター・タイラ。スケジュールによると、本日は早朝の事務官会議が予定されています。開始まで、残り47分。コーヒーブレイクの時間を考慮して、超特急モードでいきますか?』
「ははっ。気遣いありがとう。だが、『超』は結構だよ。『やや早』で頼む。今日の会議は、私が座長を務めるのでね。コーヒーの代わりに、早く到着して資料を再確認したい」
『承知いたしました』
愛用のビークルに乗り込み、冗談を告げてくるオートパイロットプログラムと一興を演じる。
そうして、プログラムが滑らかに機体を繰る心地よさに身を委ねながら、通勤時間を無駄にしないよう、打ち合わせの資料をダッシュボードへと広げた。
「……おかしいな。なんでこんなところに芝生がついているんだ?」
ホログラムのスライドを捲ろうとし、ふと、違和感を覚えた。指先から、
それは、休日になると子どもたちとよく走らせている芝刈り機に刈られ、飛び散った芝生と瓜二つで、だから首をかしげてしまう。
今日は水曜で、先週末は家族旅行に出かけていたから、芝生には触っていない。
剃った髭ほどしかないその棘を、おそるおそる抜いてみると、意外にも痛みはなく、すっと抜け落ちた。念のため、他の五指も見回してみたが、棘を生やしているものは見当たらない。
「う~ん。なんだろうな……」
頭を働かせてみても思い当たる節が出てくるわけもなく、次々と新しい棘が生えてくるでもなく、かしげた首にやった手の
「おっかしいナァ」
――もちろん、