同じ
効率的な救命活動の遂行のためであり、同時に連帯感を促すという
つまり、自身のコンソールに、無断で共有マップを接続したリエリーのように、他の威療士を監視するためのものではないのだ。
「
「それがぁ、リッチな人間のステータスだからだよぉ?」
愛用のキックグライダー、そのアクセスレバーを噴かしつつ、リエリーは独りごちる。
その独り言に、間近から返答が返り、何度目かわからないフラストレーションの唸り声を漏らしていた。
「……マジで付きまとうつもり? ウザいんだけど」
「イヤ~ン! めっちゃ嫌われてるんですけどぉ! てゆうかぁ、わたし、
住宅街に入り、スピードを落としたとは言え、グライダーの速度は短距離走の世界記録を優に超えている。
そんな走行中のグライダーに、アイサは言葉通り、自身の足で併走していた。
「……そのユニーカ、燃費がいいってマジ?」
「おやおや~? わたしのこと、気になってきたのかなぁ、リエリー・セオーク」
「……」
「ブスッとしないでぇ。わたしのユニーカ〈アース・フロー〉はぁ、
「それで狙撃もブレないわけか。地面とシンクロさせて、対象をロックオンしてるんでしょ」
「ウンウン。さっすがファースト。だからぁ、こういう都街とかは、わたしの独壇場なんだよぉ?」
「土があるとこじゃ、役に立たないわけか」
「正しいけどひっど~い! ネクサスみたいなガッチリした土地はいいんだけどぉ、柔らかい土地だと、どうしてもネ」
意外にも、不得手を素直に認め、走りながら頷くアイサ。噂に聞く一癖も二癖もあるソロ威療士のイメージとは打って変わる態度を目にして、リエリーは少しだけ、彼女に対する見方を変えていた。
「ネクサスで使ってたあのニードル、もしかしてカスタム品? データベースにないモデルだった」
「そーそー。“グランマ”がね、わたしのスタイルに合うからって。あっ、“グランマ”って、エウコリンのチーフエンジニア」
「あんたは……なんで、麻酔弾にこだわるわけ。ソロレンジャーなら、実弾が使えるでしょ?」
「んー、わたしネ、
「……じゃなんでレンジャーになったわけ? レンジャー嫌いにならないの?」
「そぉなんだよぁ。わたしもそう思うんだけどぉ、『憎きレンジャーめ!』って、どおしても考えられないんだよネ。たぶんー、〈ドレスコード〉されて死なないで済むのを、頭のどこかで願ってるんじゃないんかなぁ。だからぁ、麻酔弾しか使わないんだと思うの」
「思うって……。他人事かよ」
「リエリー・セオークもそうじゃない? スペクターの〈ドレスコード〉にこだわる理由、こうだぁ!って言える?」
返された問いに、リエリーは咄嗟に答えられない。理由はあるが、それを言語化できるかと問われれば難しかった。かと言って、そう認めるのも癪だ。だから代わりに、質問で返した。
「てか、なんであたしはフルネームなわけ。ハリハリとか、フツーに呼んでたじゃん」
「それはぁ、教えな~い! だめ、ゼッタイ」
「なんだよ、それ……」
頭をブンブンと横に振ったせいで、メッシュ入りの長髪がアイサの顔に纏わり付いていた。それが無性に可笑しく感じられて、苛立ちはどこかへ霧散していた。
「あ、あっちか」
「だネ」
鋭敏な三角耳に、独特なAGエンジン音を聞き取って、グライダーのハンドルを素早く切る。
装備はないが、支障はない。自分の聴覚と
「ま、あたしがいま、一人で救命活動したら、ハリハリが胃を傷めるだろうからしないけどさ」
「一人じゃないよぉ?」
「あんただって、勝手に動いたらダメじゃん」
「まあネ」
昨晩、枝部長室でのやり取りは聞こえていた。
誰にも言っていないが、
ハリハリこと、ジョン・ハリス
自分にとっても、
さすがに、その相手を困らせるようなことをするほど、自分は子どもではない。
「“ピザ屋”だし、あたしの出番はないでしょ。てか、相変わらず、イカしたデザインじゃん」
「ワーオ。デッカ~いピザが飛んでるぅ」
マキュレット・パークに差し掛かる路肩にグライダーを止め、跳ね上げたアビエイターグラス越しに空を仰ぐと、奥のほうに浮かぶ円盤形の機影が目に入った。芸が細かいことに、円盤は敢えて傾斜を付けてホバリングしていて、時折こちらを向く機体上面には、真っ赤なトマトソースとバジルの緑が、紛うなきマルゲリータを表している。
「あの
「レイってだぁれ?」
「ウチのエンジニア。超スゴ腕」
「リエリー・セオークの“グランマ”ネ」
「どっちかってーと、“グランパ”だけど」
実用性には全く貢献しない、むしろ、整備面を考えれば手間しか増やさない魔改造。
だが、そういういっそ清々しいまでの個性が、リエリーは好きだ。付け加えれば、そういった法スレスレのカスタマイズを、文句を垂れながら施してくれるメカニックは、カシーゴ広しといえど一人しかいない。その意味でも、“ピザ屋”――威療士チーム〈
「ファイト」
「ででで? なんかぁ、怖ぁい人たちがこっちを睨んでるんですけどぉ」
「警備か。んじゃ、イイ覗きポイントでも探すか。双眼鏡は、レンジャー装備じゃないし、使ってもだいじょうぶでしょ」
「ハイハーイ!」
前方から、私用警備車両が近付いているのを見て取って、リエリーはグライダーを反転させる。威療士として来ていない以上、下手な不審感は面倒の元だった。特に、同行者がいる今はなおのことだ。
住宅街の周囲には、高層ビルがズラリと建ち並んでいる。どれかの屋上か、上階あたりなら、充分に現場を見下ろせるはずだ。グライダーの
そうして、グライダーの速度を上げて、朝のカシーゴ・シティを疾走していく。
隣ではアイサがニコニコしながら、併走している。
不思議と、嫌な気はしなかった。