「――エドゥとティファは、負傷者の捜索をお願いします。マイク、サマンサ。二人に続いて僕と降下、
救助艇〈マルゲリータ〉、そのブリーフィングルームで降下ハッチを背にし、〈ユニフォーム〉や他の装備のチェックと装着を済ませたアシュリー・キムは、居並ぶクルーたちを見回しながら指示を伝えた。
この瞬間が、自分は一番好きだった。
救命活動直前の今は、一番気を引き締めなければならない瞬間だ。これから向かう場所には、負傷者が助けを待っているし、荒れ狂う涙幽者が破壊を振り撒いていることだろう。犠牲者は物珍しくなく、最悪、その中に自分のクルーが含まれる可能性もある。――それでも。
(僕は、みんなと救命活動できることが嬉しいんです)
アシュリーの感慨は、長く続かない。
なぜなら、一秒と待たず、クルーたちの返事が返るからだ。
「ラジャー、“ソース・ボス”。行くわよ、“ベジー”」
「だ、だから、ボクは野菜がに、苦手なんだってばぁ!」
まずは、ライムイエローのツインテールをなびかせたティファニーが、フレッシュグリーンのパンチパーマ――エドゥアルドの腕を引いて、真っ先にハッチから飛び降りていく。エドゥアルドが半泣きなのはいつものことで、これが二人のお決まりのやり取りだ。ひ弱そうに見えて、ティファニーと組んだエドゥアルドは、現場でこそ実力を発揮する。
次に古参の二人が続こうとして、ふいに、アシュリーは横から呟くような質問の言葉を受けていた。
「いいんすか、リーダー。さき、“スニヴェラー”ぶっ潰さないで」
片方の目を、ゴールドブラウンの前髪で隠した研修生のデレク・アレンが、疑問を呈してくる。
言葉数は少ないが、涙幽者のこととなると、途端に口が回るようになる。数週間の研修期間で、アシュリーはそう確信していた。しかも、そのほとんどはネガティブな方向だった。
デレクが口にした“
「デレク、その呼び方はいけないと言ったはずですよ。彼らは、好き好んで泣いているわけではありませんから」
「そうっすかね。エモくてギャン泣きしてるって、スクールで言ってたすけど」
(スペクターのよくない経験があるのでしょうね)
不機嫌そうに食い下がるデレク。その肩へ、〈ユニフォーム〉越しにも見える太い腕が手荒く回され、最古参クルーのマイク・バリスが豪快な低い声を響かせた。
「オラァ、
「いいなあ、ボスの傍付き。アタシなら萌えちゃうわ。ねぇ、代わってよ、ルーキーくん?」
マイクの反対側から、真っ赤なパンチパーマを揺らし、同じくカラフルな〈ユニフォーム〉を纏った、サマンサ・ペッパーがデレクへと詰め寄っていた。
彼女なりの気遣いであると理解している一方、リーダーとして言うべきことは言わねばならず、アシュリーは苦笑した。
「……あのですね、サマンサ。デレクは研修に来ているんですよ? それに、これが初のパトロール中の出動なんですから、しっかり経験を積んでもわないと」
『ソース・ボスを困らせないでほしいなあ、サマンサちゃん。何なら、オレとランデブーしちゃう感じでどうだい?』
「ボス~、うちのパイロットが問題発言してるんですけどー」
「ですからそれは……」
「なあ、アシュリーも照れないではっきり言ってやればいいじゃんか。背中を預けられるのは、サマンサだけだ、ってな」
「えっ、マジマジ??」
既に降下準備を終えたマイクが、サマンサに見えない角度でウインクを飛ばしてくる。そうして力強くサムズアップすると、駆け足でハッチに駆け込んでいった。
(アシスト感謝です、マイク)
マイクは、アシュリーがチームリーダーになった頃から
そうして、心の中で長年の相棒に礼を言うと、アシュリー自身もコンソールのダイヤルに手を掛けた。
「ええ、当然です。僕たちは、チームメイトであり、苦楽をともにしてきた家族です。いつだって頼りにしていますよ。サマンサも、皆も」
「なんかー、はぐらかされてる気がするんですけどー? どう、ルーキーくん」
「いや……オレ、研修生なんで、そういうのはわかんねえっす」
「では、研修生デレク。チーム〈スターダスト・ピザ〉の救命活動をしっかり、その目に焼き付けてください」