……近代科学が発展するにつれ、黒狼に関する研究は目覚ましい成果を挙げてきた。その最たる物が、
歴史的観点から見た場合、同鎮静剤の発明の意義は、人類が黒狼に対抗する新たな手段を見出したということにある。戦う力を持たずとも、同剤の使用によって比較的安全に黒狼を無力化可能になったことの意義は大きい。
一方、威療士を始めとした、いわゆる「黒狼救済者」の出現を促すこととなり、このことが〈昏睡黒狼問題〉や、後の〈大覚醒〉の引き金となった事実は、無視できないところである。いわば、同剤によって人類社会は一時的な安寧を享受した一方で、そのツケとも言うべき代償を後代が被ることとなった。
科学の発展は、往々にして一長一短であるが、同剤の発明は人類史に暗い影を落とす結果を招いた。その発明者として知られ、悲劇的な生涯を遂げたハフナイア医師親子については……
※註釈……本文中には現代において差別用語となる語句が含まれるが、原文のまま記載した。