――タイラ邸、ガレージ。
「……
「あー! さてはルーキーくん、チックルプの感情分析わすれたー?」
「いや……それは……。はい、すんません」
燃える朱の髪色の少女威療士――研修先チームのサマンサに、ぐいっと顔を寄せられ、ついデレクは目を泳がせてしまった。確か資料によれば、デレクと年齢が近く、パンチパーマのヘアスタイルが表している通り、炎系のユニーカを操るという。
(めっちゃ、腹がすくな、サマンサさんのフレグランス)
じきに20代へ突入しようというデレクだ。
異性に対し、免疫がないほどウブでもない。しゃべり方のせいだという自覚はあるが、いちおう、これでも将来を約束した相手が故郷にはいる身だ。
鳴りそうな腹をとっさに押さえ、デレクは目の前のことに意識を集中させる。
倉庫に似た平屋根の天井を突き破って、チームリーダーが言う“ツタ”とやらがウネウネと天を突いていた。ツタは横方向にも枝を伸ばしつつ、着実に成長しているように見える。
「樹の枝でもツタでも同じことですが……。デレク、その共通項はなんです?」
「そか。植物系のスペクターか!」
「せいかーい。アタシたちも数えるくらいしか見たことない、レアなタイプにはちがいないけど」
「デレク。〈
「あー、扱いがメンドいんでしたっけ」
「ぶっ。ストレートな言い方だなあ」
「サマンサ。……〈
「講義はあとにしてくれ、リーダー!」
〈ギア〉に届いた接近警報とほぼ同時に、横へ跳び退る。座学は別として、身体能力には自信がある。
そうして見回してみれば、クルーのそれぞれも回避行動を取った後らしく、先頭を行っていた逞しい背が、のたうち回るツタにしがみついて振り回されていた。
『いい反応です、研修生。では、マイクの手伝いを任せましたよ』
「オレがっすか?!」
イヤコム越しに、面白がるチームリーダーの声が届いた頃には、その姿が消えていた。
ただ蒼い〈ユニフォーム〉と、燃えるパンチパーマが“ツタ樹”の根元、ガレージらしいほうへと駆け出していくのが見えた。
『聞いたろ新米! さっさと動け!』
「動くたって、どうすりゃいいんすか!」
『んなもん、こいつを止めるに決まってるだろが! このまま茎が伸びりゃあ、周囲に被害が出ちまうだろ!』
「切るのはダメなんすよね!」
明らかに速度を増してこちらへ飛んでくる枝先を辛うじて躱しつつ、デレクは必死に頭を巡らせる。
『あったりまえだろ! 切りゃあ、もっと手がつけられなくなるぞ! うおっ』
太枝が交差しかけ、とっさに飛び退くマイクの姿が視界の隅に映る。
今や、巨大な“ツタ樹”は敷地全体に広がりつつあった。
「刺激を与えずに、抑えこむ……だったら」
矛盾しているようだが、理不尽だとは感じなかった。
そもそも、威療士を志すと決めた以上、矛盾くらい、解きほぐしてみせる覚悟はしている。
「で、どうすんだ、トレイニー」
「マイクさん。この植物、スニヴェ……スペクターから生えてるんすか?」
「生えちゃいるが、こいつは反転感情が暴走させたユニーカそのもんだ。ぜんぶ体の一部、とは言えんだろな」
返った予想通りの答えに、デレクは短い息を吐いた。
〈
だから、
「……って習ったけど、実感わかねえわ、これ」
「何ボソってる? リーダーたちに注意が向かんように引きつけるか。まえはそうやって――」
「――いや。もうちょい耐えてもらえます? そのあいだに、オレが
「……おまえのユニーカか? 他人をとやかく言えた義理じゃないが、そいつはたしか、けっこう危ないんだろ。特に、おまえ自身が」
「まあ、腹はくくってるんで。オレはどうなったっていい。スペクターのスキルさえ磨ければ、それでいいんす」
自分は弱い。弱かったから、彼女を助けてやれなかった。
だから。
――幸セにナって。
(そんなこと、できるはずがないだろ……っ!)
「……わかった。その覚悟に免じて、顎で使われてやるぜ」
「あざっす」
速まる鼓動に合わせ、体中を熱い
ユニーカの行使に邪魔な〈ギア〉を放り投げ、じーんと火照る両眼で対象を見据えた。
「――