「――だいじょうぶかな~、ルーキーくん」
「任せられると案外、思ってもみない実力を発揮するものですよ、サマンサ」
「ボスって、ときどきチリペッパーよりも鬼だよね」
併走するクルーにそう評価され、アシュリーは「そうですか?」と本心から首をかしげた。
自分はチームリーダーとして、チームを守るのが仕事だし、それを誇りにも感じている。
それが、ここまで結束できるようになったのは、クルーたちの努力のおかげだ。リーダーとしての自分はただ、背中を叩いたり、崖から突き落としたりしたに過ぎない。
研修生のデレクに対しても同じだ。できると判断したからこそ、あの場を託した。――ただ。
「マイクには、苦労をかけたかもしれませんね」
「だいじょうぶだいじょうぶ。マイキーにゃ、あとでネットで見つけたピザカッターわたしとくから」
「助かります」
「だっだらぁ、ボスぅ? こんどのホリデー、いっしょに遊び行こ?」
「それなら、カシーゴ・ガーデンはどうです。珍しいハーブの展示が始まるそうですよ」
「ま、またぁ?! ボスってホント、ハーブに目がないよね――」
「――サマンサ」
呼びかけるまでもなく、ほぼ同時に足が止まった。場所はガレージの側壁、一段とツタの濃い壁際だ。
指を二本立て、ハンドサインでの会話に切り替える。
『裏にいるね。やっぱりバイタルは弱い』
『典型的な〈
無茶するつもりなど、さらさらない。
自分にはチームがあって、大切な人たちがいる。
彼らを悲しませたくないし、自分だって死に急ぐタイプでもない。
(命を救い、己も仲間も帰る。それが、レンジャーの仕事ですから)
威療士の仕事を、自己犠牲精神で喩える人は多い。大方、
確かに、威療士は時として残酷な結末を迎える、命がけの仕事だ。実際、救命活動中に殉職した威療士を、自分も数人知っている。
が、それは一つの結果でしかないのだ。
威療士は皆、『生かして生きて帰る』ことを真っ先に叩き込まれる。それが正しい在り方だと、自分も思っている。威療士が無謀に動いて犠牲になれば、救えたはずの命も救えなくなる。
だから何より、生きて帰るのが大切なのだ。
「タイラーさん? 勝手にお邪魔して、申し訳ない。僕は、アシュリー・キム。開けてもらえませんか」
サマンサをガレージの側面に待機させ、アシュリーは堂々と歩いて、車庫の正面に出た。
そうして、〈ユニフォーム〉の出力値を最大に保ったまま、〈ギア〉を跳ね上げてゆっくりとガレージのドアをノックする。
(頼みますから、返事してください。意思疎通できれば、穏やかに事が進みますから)
「――レンジャー、カ。そレとも、ピザ屋ト呼ぶベキか」
厚いドア越しに伝わる、しゃがれた声。それは疑いなく涙幽者化の兆候を示しているが、意外にも落ち着いた声だった。
「さすがはネクサス事務官。はい、レンジャーチーム〈スターダスト・ピザ〉です。当店自慢のピザをお届けに参りましたよ」
「惜しイな。きミらのピザは絶品ダと、聞いテいる。ワたしは、まだ口にシタことガなくテな。コレからもナいのガ、悔やまれル」
「何を言うんです。今日は〈マルゲリータ〉号でお邪魔しているんです。このあと、すぐにお作りしましょう。もちろん、サービスです」
「ハハっ。気前ガいいナ。だッタラ、連れテ行っテもらオウか」
しゃがれた声が途切れると同時に、ガレージのシャッターが屋根へと格納されていく。
腰を浮かすサマンサの姿が視界の隅に見え、アシュリーは指を立てて制止する。
今は、涙幽者――タイラを刺激したくなかった。
センサの値と、異様なツタの数。
それだけで、タイラの涙幽者化が進行しているのは疑いようがない。敢えて仄めかした〈ドレスコード〉の話題にも、タイラは動じる気配を見せなかった。本人も、避けられないと自覚しているのだろう。
ならば、穏やかにことを進めるに超したことない。
「ご協力、感謝します」
「先ニ言ってオクが……見テ気持チのヨいもんジャないゾ」
「あいにく、自分の目で見ないと、信じない性分でして」
「ソレは、損な性分ダナ」
ガレージのシャッターが開かれ、むっと濃い植物の匂いが鼻をついた。照明は切ってあるらしく、窓のないガレージの内部は薄暗い。
足音を鳴らすように踏み込み、〈ギア〉に触れてその明度を上げる。
そうして見えてきたのは、コンクリート張りのガレージの、その中央で浮かんでいる、一台の