「ティファニー……っ!」
救助艇〈マルゲリータ〉の後部からジャンプし、十数メートル下方の空いた場所、邸宅の中庭らしき地面へ着地する。
同時に前転して衝撃を逃がし、エドゥアルドは、両の親指と人差し指で“
たちまち眼前の窓がフレームの形に切り取られ、室内へと倒れていく。が、完全に倒れる直前、吸着機能をオンにした〈グローブ〉の指先を押し当て、屋外に放り出した。
背後で盛大にガラスの割れる音が響いたが、構っていられなかった。こんな
そうして、リーダーたちがいる裏庭のほうは後回しにし、邸宅内をくまなく探していく。
さすが
「ティファニーは強いんだ。ぼくなんかより、ずっと。だからきっと、大丈夫」
それが焦りを強くさせ、知らず独りごちた名前には、もちろん応答がない。
心配なものは、心配だ。
ティファニーと
そのときは、自分がイージーミスをしたせいで負傷し、さらに重傷の要救助者と孤立した状況にあった。
思い返すだけで当時の自分を殴ってやりたくなるのだが、そのときは迫る死の足音に本気で怯えていた。
元より、
――オレの息子がそんなに弱っちくてどうすんだ! 度胸つけてこい!
(だからって、勝手にアカデミーに入れなくたっていいじゃないか……)
皮肉なことに、臆病な性格が『状況の正確な予測と重大事案の防止』に適していると評価され、気がつけば〈ユニフォーム〉を羽織っていた。
もし、あの事案を経験していなければ、間違いなく自分は威療士を辞めて、遠くへ逃げていた。
(『要救助者も仲間も連れて帰るのが威療士よ』、かぁ。あのときのティファニー、かっこよかったな)
思い返しただけで頬が緩みそうになり、エドゥアルドは慌ててその頬を叩いて気合いを入れ直す。
「もっとティファニーの役にたつって、決めたんだ。しゃきっとするんだ――?!」
パステルカラーで染められた、如何にも子ども部屋だとわかる部屋。そこへ足を踏み入れたとたん、エドゥアルドの頭は一瞬で真っ白になった。
「……血」
短毛の淡色の絨毯を、赤黒く染め上げている、染み。
よほどの悪趣味でもない限り、こんなデザインを取り入れないだろうし、何より、嫌でも見慣れた自分の目には、それが人の血液だとすぐにわかった。
「DNAを……照合」
浅い息しかできない喉から無理やり、指示を絞り出すと、たちまち〈ギア〉に【解析中】のプログレスバーが浮かび上がる。
(たのむ……っ!)
不謹慎だと、充分に理解したうえで、それでも分析結果が
やがて、無限にも思える短時間の解析が済むと、その文字が〈ギア〉に流れた。
【――解析完了。レンジャー・ティファニー・ロスのDNAと99.9998%の確率で一致】