「――っ! サマンサ! ティファニーの援護に行ってくださいっ!」
「ラジャ――」
踵を返しかけたサマンサの背後へ、鞭のようにしなった枝が迫る。
明らかにその背を狙った一撃は、だが、赤々と
「――――」
「あいにく、こちらも伊達に長くレンジャーをやっていませんの、でっ!」
そのまま走っていくサマンサの背を視界の隅に捉えつつ、今度はアシュリーが一気に加速する。
サマンサのユニーカは、その
加えて、彼女の〈
ティファニーの身に何が起こったのかまではわからないが、助けが必要な状況にあることだけは間違いない。攻防のバランスが取れているサマンサならば、どのような状況でも力を発揮してくれるはずだ。
「アノ子を――トゥルーヲ――」
「安心してください、事務官。お子さんは無事ですから――」
幾本も迫り来る枝の突きを、〈ユニフォーム〉のアシストを借りて跳躍し、涙幽者へ肉薄する。右手には抜針してある〈ハート・ニードル〉が、いつでも直心穿通できるよう握ってあった。
「――チガウッ!」
車中の涙幽者にサイドからアプローチするのは困難と判断、
「ぐっ……!?」
「トゥルーに――息子ニ、手ヲ出スナ」
頭を狙ったと予測した枝が、急降下し、アシュリーの右足に絡みつく。そのまま釣りでもするように逆さに持ち上げられ、不意を突かれたことで手から滑り落ちた〈ハート・ニードル〉がカランカランと軽い音を立ててボンネットへ跳ねた。
「ですからタイラ! お子さんは僕たちが保護して――」
「――
「……えっ?」
「トゥルーノチカラハ、ワタシノヒデハナイ。アノ子ノチカラハ、神ノ贈リ物ダ。
「ではあなたが反転したのは……っ!」
「ワタシハ、息子タチヲ愛シテイル。彼ラニハ、“染マッテ”ホシクナイ。ダカラ、ワタシガ世界ヲ救ウ。スペクタードモノイナイ、新世界ヲ造ルノダ」
逆さになった視界の中、アシュリーは、白く濁った涙幽者の双眸から、透き通った雫が溢れていくのが見えていた。
それは、まるで、天へ届けと、込められた願いのようだった。