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ファレルの背を追いかけて

(……足、速ぇ!)


 ファレルの背中を追いかけていくのは、予想外の運動になっていた。

 同行を指示された数秒後には、既に白衣が廊下の遙か先にあった。

 駆け足で追い付くと、露骨に「遅い!」と叱責され、デレクに弁明の時間も与えないまま、禿頭の医師は突き当たりの壁に手を押し当てていた。

 途端、蒼い光条が縦に走り、壁が左右に割れ始めていく。それがエレベーターだと認識できたのは、ファレルに「さっさと乗れ」と背中を叩かれた後だった。

 そうして独特の浮遊感に包まれていると、操作パネルを叩いたファレルが、白銀のブレスレットをこちらへ突き出した。


「着けろ。ゲストとして生体情報を一時的に記録する。こっからは外部との通信、それと機器類の動作が全て遮断される」

「相変わらずの厳重さですね。このエレベーター、前よりも新しい気がするんですが」

「先月位置を変えたばっかだ。どっかのレンジャーが研修生なんぞ連れてきたおかげで、また工事せんとならんがな」

「……これもオレのせいっすか」

「気にしないでください、デレク。ただの規則ですから。ドクター・ファレルも喜んでいますし」

「誰が喜んでる。俺の仕事が増えるだけだろが、まったく。……研修生」

「はい?」

。ネクサスの連中に何か訊かれたら、抜き打ちのユニーカテストに連れてこられたとでも言えばいい」

「オレになにをやらせるつもりなんすか」


 ファレルの目がチームリーダーへ向けられる。が、リーダーは得意の愛想笑いを浮かべただけだった。


「やれやれ……。お前も、エライところを研修先に選んだもんだな」

「ちょびっと後悔してます」

「ハッ! 大したヤツだな。デレク・アレンとか言ったな、研修生」

「はい」

「お前のユニーカで試してほしいものが一つある。それが済んだら、帰っていい」

「ドクターのところでスペクターの機能回復治療リハビリをしてるって聞いたっす。オレは、それが知りたい」


 今度は自分からファレルの目を見据えた。目を離すつもりはなかった。


「……何年だ」

「はい?」

「お前の家族のことだ。“眠ってから”、どれくらい経つ?」

「8年と4ヶ月」

「そうか。俺は医者だ。医者ってのは、物言いがハッキリせんとならん。よく聞け、アレン。――お前の家族が目を覚ます可能性は、ゼロに近い」

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