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諦めの悪い連中

「……は?」


 単刀直入にファレルが断言した言葉が、思考を停止させる。

 絞り出せた声は酷く擦れ、口の中から水分が瞬く間に乾いていった。


「〈ドレスコード〉を受けたスペクターが覚醒する可能性は、昏睡状態が長ければ長いほど低下する。その大きな境が、1年だ。1年以上昏睡しているスペクターが覚醒する確率は、10%に満たない。……アカデミーで聞いたとは思うがな」

「けど、10年以上たって目を覚ました実例だってあるじゃないっすか!」

「ああ、そうだ。お前が言ったような事例は確かに報告されてる。なら訊くが、そういう事例は全体の何%ある?」

「数字はわからないっすけど……。10、20じゃないのは間違いない!」

「全部で86件だ。この国で統計を取り始めて以来約90年、10年以上の昏睡状態から覚醒したスペクターは、それだけだ」

「だからって……っ!」


 少ないのはわかっていた。が、こうもはっきりと数字を突き付けられ、デレクは言葉が出てこなかった。

 強く握り締めた拳が痛みを訴えてきたが、力を解くことができなかった。

 そんな自分へ、ファレルの意外な言葉が耳を衝いた。


。自分で言っておいてなんだがな」

「……え」

「13年7ヶ月と9日。俺の息子が眠っている時間だ」

「……」

「いいやつだな、お前は。たいていのヤツは、俺がそう言うとすぐ『気の毒』だの『辛いだろう』だの言いやがる。腹が立つだろ? 端から諦めてるってことだからな。だが、アレン。。そいつは、なかなかできることじゃあない」

「オレも、そういうやつは嫌いっす」

「そうだな。だったら、安心しろ。ここの連中に、そう言うヤツは一人もおらん。俺の部下は、どいつもこいつも、俺以上にしぶとい連中ばかりだ」


 音もなくエレベーターが停止し、扉が左右に開いていく。

 先に降りたファレルが、初めて笑顔を浮かべて自慢げに言った。


「歓迎する、デレク・アレン研修生。ここが、カシーゴ・リカンサイルド・リハビリテーション・センターだ」

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