「――以上が、チーム〈ファイア・マカロン〉の身に起きた事のあらましになる。不幸中の幸いにして、クルーは全員、救助した。諸君の心配は理解しているが、私の許可があるまで面会は禁止にさせてもらうよ。コンソールも預かっているから、通話も控えてくれ。今はただ、彼らの回復を祈ってほしい」
そこまで語り終え、枝部長室のスタンドデスクに仁王立ちしたジョン・ハリス
眼前、自身を映したホロウィンドウを透かした向こう側に、真っ直ぐこちらを見据える明るい碧眼を認め、ハリスは、この
「昨夜が当直だったレンジャー諸君は既知のことだが、改めてカシーゴの全レンジャー諸君に通達する。昨晩の2130をもって、スペクター警戒レベルを
カメラに映らない位置にある手で、ホロウィンドウを消すジェスチャーを結び、ハリスが「ふー」と息を吐く。後ろ手にしていた手をデスクに突いて体重を預けると、軽い目眩がした。
「お疲れ様でした、ネクサスマスター。各チームの傾向を考慮したうえで、可能な限りブリーフィングに参加できるよう、シフトを組み直しておきましたわ」
「助かるよ、チーフ。……それで、彼女たちの様子は?」
普段なら冗談の一つでも飛ばしているところだが、あいにく、徹夜の影響でその余裕は持っていなかった。もっとも、徹夜でなくとも、冗談を言う気力はないのだが。
言葉数の少ない自分を見据えたまま、秘書兼チーフオペレーターであるカニンガムが、用意していたようにすらすらと質問に答えた。
「サム・キースは依然、危篤状態。ヴィッキー・カルツツァは一命を取り止めましたが、現場への復帰は困難とドクターが診断しました。サイアム・バンカーは今朝、辞表を提出しています」
「……そうか。レスカ君とは、話せるかい」
「身体的には軽傷ですわ。ですけど、あのようなことの直後ですわよ? しばらくそっとしてあげてくださいな――」
「――チーフ。
「……いいえ。短時間であれば、聴取可能と。ただし、無理強いはしないようにと強く言われています」
「当然だとも。私も鬼ではないからね。レスカ君には気の毒だが、一刻も早く子細を知る必要がある。頼りの機器類が全てダウンとあれば、彼女から聞くしか方法がない」
「
鋭い指摘だった。淡々とした言葉の裏に、自分への怒りをカニンガムは抑えている。
すっと背筋を伸ばすと、ハリスは滅多に出さない枝部長の声で告げた。
「言い換えよう、オペレーター・カニンガム。直ちに、レンジャー・アキラ・レスカと面会する。用意してくれ。
「……了解しましたわ」
すかさず背を向けたカニンガムが、足早に枝部長室を後にする。ドアを閉める音が大きく感じるのは、気のせいだろう。
そうして、ハリスは短く嘆息すると、「ジョン・ハリス。カシーゴレンジャー、ネクサスマスター。部屋をロックダウン」と、宙に命令を投げかけた。
直後、ただでさえ少ない出入り口の全てが施錠される音が響き、1ヶ所しかない背後の窓に頑丈なシャッターが降りた。これで、たとえ自分が死んでも、誰も部屋には入れなくなった。
「未アップロードのギア・レコード No.188765を再生」
【警告。統合データベース〈ミーミル〉アップロード前の記録閲覧は、レンジャーコードに違反】
「ネクサスマスター権限により強制実行。実行ログは直ちに消去」
【命令を確認。記録を再生。一部破損あり】
既に何度となく繰り返した手順を無機質に繰り返すと、デスクにホロウィンドウが浮かび上がった。
そのタイムスタンプ再確認し、ハリスは目を細めて映像に注視する。
そこには、アキラ・レスカ目線で録画された映像が流れていた。
そうして、ハリスは目当てのシーン――