「ここ、配線かえてみたら。あと、ここは……」
自室の机に広げた、小型ロボのパーツたち。
訊けば、ロボは自分の代わりに接客してもらうために考えたものらしい。
古馴染みの客の相手はレイモンドに任せてもらえるが、それは少数で、大半はレイモンド自身が客の相手をしている。
その負担を減らしたいと、ロボの設計者――エンは真剣な表情で言っていた。そう言われた以上、リエリーとしても本腰を入れないわけにはいかなかった。
「じゃあ、じゃあ、こっちはどうですか、
リエリーのアイディアに対し、エンは、素直に受け入れることもあれば、思ってもみない方向から気付きを与えてくることも多かった。
今も、膝の上でこちらを見上げてきた小さな
「やっば。それサイコーじゃん」
「わあ! やったー!」
そんなやり取りを繰り返すうち、ロボはみるみる完成していき、残すは仕上げのみとなった。
「――素敵だと思わない、アナタ」
「――ああ、ルー。あの子も大きくなったもんだ」
唐突に耳へ届いた、聞き慣れた声たち。
首だけで部屋の入り口を振り返ると、壁にもたれてこちらへ目をやる茶黒い巨躯と、『微笑む目の笑顔』の絵文字を乳白色の筐体に浮かべ、宙を漂う正十二面体の姿があった。
「びっくりしたっ! ちょっとロカ、ルー! なにやってんの」
「メッセージに返事がなかったもんでな。寄ってみただけだ。俺たちのことは気にすんな。続けてくれ」
「そうそう。ビデオ撮ってるから、ね? 続けて続けて」
「ちょっ!?」
豪腕を組んだまま、
素っ飛んでいきかけ、ふいに、膝に乗った温もりを思い出した。
「あの……
「まあ! 『ねえさま』ですって! アナタ、聞いた?」
「もちろんだとも。一生、忘れられんな、こいつは」
「あー、二人はなんていうか、あたしの……えっと……」
「初めまして、エンちゃん。ワタシ、ルヴリエイトよ。ルー、って呼んでね。こっちのデッカい人は、マロカよ。ロカって呼んであげてね。ワタシたち、レイモンドお爺ちゃんの古~いお友だちなの。もっちろん、そこのリエリー“ねえさま”のお友だちよ」
「よろしくな、エン君。リエリー“ねえさま”は優しくしてくれてるかな?」
紹介の言葉選びに困ったリエリーだったが、すかさずルヴリエイトの的確なフォローが入っていた。普段なら、『ルーママ』呼びを強制してくるところだが、それがない。
状況を呑みこめないでいると、目が合ったマロカのウインクがあった。レイモンドからエンについて聞いたのだろう。
「わあ! は、はじめましてですっ! ルーさん、ロカさん。はい! 師姉さまは、とってもやさしいです!」
「そいつはよかった。これからも仲良くしてやってくれ」
「はい! とってもいいおともだちですね、師姉さま!」
「ま、まあね」
純真な目にそう言われた以上、もはや返す言葉もなく、リエリーはただ火照る耳を堪えるしかない。
いそいそと、コンソールに目を通すと、確かにプライベートメッセージで状況を尋ねる吹き出しがいくつも届いていた。基本、サイレントモードにしてあるとは言え、気付かなかったのは不覚だった。それだけ、エンとの共同作業に夢中になっていたのだろう。――と。
「……おっと」
「そうね。エリーちゃん」
一斉に耳を衝いた、鈴音のような通知音。それは個人用と違い、
ルヴリエイトに頷き返し、エンを抱き上げて立たせると、リエリーは膝を曲げて目線の高さを合わせた。
「エン。あたし、いかなきゃ。レイのとこに行って。帰ったら、ぜったいロボを手伝うから。約束」
言い終え、立ち上がって踵を返した。
マロカたちが立つ斜向かいの壁に埋め込まれた、円筒形のワードローブ。
リエリーの接近を検知し、充電器を兼ねたそのワードローブ内が自動的に蒼く点灯すると、仕事着――〈ユニフォーム〉が迫り出してくる。
素早く羽織った背に、「はい。……あの!」と、声が掛かった。
「ん?」
「みなさん、い、いってらっしゃい!」
「まあ……!」
「こりゃ、いつもの半分の時間で帰れそうだな。な、リエリー」?
「ほら、ちゃっちゃといくよ!」
表情を見られたくなく、リエリーは俯き加減で部屋を後にする。
そんな背後から、駆ける足音がすると、追い越し様に「師姉さま、いってらっしゃい!」と、再び声が掛かった。
「うん、いってくるよ」
認めるのは癪だが、マロカの言う通りかもしれない。
いつも以上の活力を感じつつ、リエリーは〈ハレーラ〉の操縦席へ急いだ。