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チーム〈CL〉、出動

「――スペクターと市民の数が多い。手早くやるぞ。ルー、状況をまとめてくれ」

「わかったわ。……キャンプ・グランド・ローズウッドで複数のスペクター反応。センサの速報値ファストチェック、〈恐怖テーラ〉〈激怒レィザ〉〈悲嘆グリィファ〉の混合。先行したチームの報告によれば、少なくとも4名のスペクターを確認。いずれも出力過大のユニーカを行使しているそうよ。市民の安全を優先して現在は避難誘導中。即応チームと、強襲チームに応援要請済み」

「強襲って、あたしたち以外にいたっけ?」

「いるわよ? エリーちゃんが苦手な熱血チーム、〈オニキス・バーガー〉とかね」

「げっ。冬でも暑苦しいあれかー」

「もっと暑苦しいやつがここにもいるぞ?」


 救助艇〈ハレーラ〉の操縦室。

 ブリーフィングに集ったチーム〈チョコレート・ライトニング〉の面々のうち、茶黒い巨躯――マロカが、得意の自虐ネタで両腕を広げてみせた。細めた深海色の目が、『同僚たちをそう言うな』と諫めていて、リエリーは肩をすくめてみせる。


「パイロット、到着はいつだ?」

「約4分」

「よし。なら、本件の分析を聞かせてもらおうか、レジデント・リエリー」


 つい、口角が吊り上がっていた。

 救命活動に向かう機内で、救助艇を操縦しながら状況を分析する。おおよそ、他の威療助手には真似できない高度な指示がチームリーダーから下され、リエリーは嬉々として声を張り上げた。


「りょーかい。反転感情〈恐怖テーラ〉、〈激怒レィザ〉、〈悲嘆グリィファ〉、通称、“3大反転感情マグニフィセント・スリーは、スペクターの4割を占める基本反転感情ベーシックに分類されてる。ベーシックは、簡単に他の反転感情を誘発するのが特徴。てことで、“マグニフィセントMスリー3”は、個性的なユニークユニーカ使いってこと」

「個性的かどうかはともかく、M3のスペクターは、ユニーカが複雑化することがたいがいだ。俺たちレンジャーにとっちゃ、危険極まりない現場ケースであることは言うまでもないな」

「他のネクサスなら、最低3チーム合同の救命活動になるんだけど、ここカシーゴには、突っ走る誰かさんペアがいるおかげで、そうもいっていないのよね。ジョンのため息が聞こえそうよ」

「役割分担だってば。あたしとロカは、“腹ぺこレベネス”をぶっ飛ばす……〈ドレスコード〉するのが得意。だからそれをやる」

「リーダー? 部下があんなこと言ってますけれど?」

「うん、そういう捉え方もできるってわけだな」

「もぅ、甘いんだから。二人とも、安全第一ですからね! 無茶したら、反省するまで食事はベジタブル・オートミール限定にしますよ」

「なあ、ルー。せめて、チキンくらいは入れてくれんかな……」

「着いたよ!」


 公園の駐車場、その開けたスペースに着陸し、リエリーは素早く操縦席から飛び降りた。

 同時に、手首の操作ダイヤルを捻じ切り、〈ユニフォーム〉を戦闘救命モードへ切り替える。シュッという音ともに全身を締め付ける慣れた感覚が伝わり、離陸から装着していたアビエイター型〈ギア〉に、周囲の状況が展開されていった。


「準備は? リーダー」

「お先にどうぞ、相棒」


 どちらからともなく拳を突き出し、軽く打ち合わせる。


「ルー。サポよろ」

「ええ、任せて。――汝らに蒼き護りをホープ・ザ・ブルー


 送り出す言葉に背を押され、リエリーは操縦室の開閉ボタンを叩いた。

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