「――クソがッ!!」
悪態は、自分の躊躇いに対してだった。
そのうちの片方が、これも薄気味悪いほどに生々しく描写された通行人らしき市民へ長い腕を伸ばして掻っ攫うと、貪り食い始めた。
既に拳が届く間合いまで詰めていたアキラは、間違いなく
(どいつもウソもんだろが! どっちみち、あの傷じゃあ助かりゃしねェんだ……っ!)
そうして目の前にあった別の
グキリと、肝を冷やす感触が腕を伝い、その通行人が近くの塀へ倒れ込んだ。経験が、その衝撃の度合いを伝えてくるが、無視して標的を視界に捉え直す。
(喰ってるいまならッ!)
これは、自分への罰だ。
仲間たちを救えなかった、無能な
だから救命活動ではない。そもそも、ここにはホンモノなど存在しない。救うべきイノチも、鎮めるべきココロもありはしない。
だから拳しか使わない。
どれだけ振るったところで傷ひとつ付かないのは癪だが、それでも延々と壁ばかりを血に染めるよりは、マシだ。
だから狙いを定める。
もはや肉塊と化し、ヒトだったそれもろとも葬り去るべく、アキラは己の紫瞳を黄金色へ染め上げる。自分の役立たずな
「死ねェ――ッ!!」
極限まで高めた身体能力。その顕現として、
もしものときの最後の手段として一人で秘密に編み出し、だが肝心のところで思い出すことすらできなかった、無能な自身を顕わすのに相応しい必死の一撃。
「――アキラッ!!」
漆黒灰に届くはずだったそれを、不可視の壁が阻んでいた。――正確には、ユニーカで圧縮させた空気を纏わせた傷だらけの手が、アキラの手首をつかんでいた。
「なッ?!」
見ずともわかる、その特徴的な声変わり前の声の持ち主。
そばかすが目立つ顔が――リエリーの顔が、そこにあった。