「……そういうことで頼むよ、リーダー諸君」
会議室のドアを押し開けると、そんな締めくくりの言葉が耳に入ってきた。
そのドアを開ける前に、「一人で歩ける」と言い張ってリエリーから少し距離を取ったアキラへ目を向けると、肩をすくめて返された。
(そりゃアキラだって知らないか)
知らないなら、訊くだけのことだ。
「ハリハリ……じゃなかった、ネクサスマスター・ハリス。なんか、ブリーフィング終わってるぽいんだけど」
「意見は歓迎するけれどね、セオーク・リーダー代理。思い込みで話すのは、改めたほうがいい。救命活動じゃあ直感が効くかもしれないが、こういう場は君のほうが
「これからはその返答も改めてくれ。飾りでしかない役職だとしても、僕が君の上官であることには変わらないんだ。違うかい?」
「……りょーかい、ネクサスマスター」
「よろしい。改めて歓迎する、セオーク・リーダー代理、リーダー・レスカ。これから重要事項を話すところだよ。適当に席を探してくれ」
その言葉がアキラへの気づかいなのはわかったが、案の定、「イェッサー!」とレンジャー式の敬礼を返したドレッドヘアは、リエリーの前へ出ると、空いた場所で仁王立ちした。
周りをサッと見回し、リエリーが壁際に背を預けると、集まっていた視線が前方へ移るのがわかった。
「さてと。事態が変わっても、われわれの仕事と使命は変わらない。レンジャーとして命を救う、それだけだ。市民と諸君の安全のため、〈ハート・ニードル〉の即時使用を許可したが、言うまでもなく無闇にぶっ放していい代物ではない。諸君を信頼しないわけではないが、今後は〈トランキライザー〉の消費量を逐次報告してくれ。これで、誤って睡眠薬の代わりにする者も減るのではないかと期待してるよ」
「うっわ。そのジョークはないんじゃない、ネクサスマスター」
「正直な意見に感謝するよ。ともあれ、〈トランキライザー〉の使用は今まで以上に慎重に頼む。各地で消費が増えれば、不足するのは目に見えている。ネクサス同士で鎮静剤の取り合いなど、考えたくもない」
「そうおっしゃるからには、もう手は打ってあると自慢しているように聞こえてなりませんがなあ」
「コメントは控えさせてもらうよ、リーダー・バース。最後の伝達事項だ。今後、
しーんと、場が静まり返った。
リエリーだけでなく、見える範囲にいるリーダーたちのほとんどが驚きの表情を浮かべていた。
そうして声が挙がるのを制するように、枝部のトップは淡々と言葉を継いだ。
「諸君の懸念は理解している。現状でも人員に余裕がないのは諸君の言うとおりだ。よって、現着後にスペクターを1名のみ認めた場合は、片方のチームが離脱することを許可する」
「That's apples and oranges. こいつぁ、訳がちがうぜ、ネクサス」
「
「僭越ながらネクサスマスター。そのメリットとやら、皆目、見当もつきませんが……」
ハリスの目がこちらを向き、かすかにうなずいたように見えた。
(やな予感……)
「簡単なことさ、リーダー・グリラ。諸君には――いいや、われわれカシーゴ・レンジャーが全員、“戦錠”になればいいんだよ」