――カシーゴ
「……残りは2人、か」
紙の資料のために照明が最小限に絞られている薄暗い保管室の一角で、読み終えた最後の一枚を
次の
『――ブロ。このネクサスに
そこまで絞れているなら、おおよその見当はついているのだろう。
ならば、客観的で確実な証拠が欲しいということだ。そして自分を愛称で呼んだということは、これが
(引退したレンジャーの調査なんぞ、よほどのことだな)
そう思い至ったブロントは、三秒と迷わずこの場所へ向かっていた。
生半可な出どころより、この保管庫のほうがよほど信頼できる。
何せ、ここに収められている資料は、その大半が手段を選ばずに収集されてきたものばかりだ。全て知っている訳ではなかったが、あの用心深いハリスに、「僕が人事不省になったら真っ先に火を付けてくれ」と真顔で言わしめるほどの代物だ。その収集の一部に関わったブロント自身、わずかとは言え罪悪感を覚える以上、上官の望みも仕方ない。
が、おかげで仕事が回っていることも事実だ。
内部監査という嫌われ役を務める一方で、人望が求められる副枝部長を兼務できている要因も、この保管庫の存在あってこそに他ならない。正確かつ、最小限の
「フォールン・レンジャー、バテス・ロドラ」
目的の名前を視界に捉え、二重チェックも兼ねて声に出してみる。その響きが指し示した相手は、同僚からも市民からも評判が高い現役
そうして、旧式だが純粋な堅硬さを誇る、鍵付きの書架の正面で足を止めた。
「
ハリスから預かった、
それを手掌に握りしめると、ブロントの双眸が、にわかに黄金色の輝きを帯びる。
「
「……何」
カチッと、小気味よい音に合わせて引き出しがせり出すと、ブロントは思わず眉間を寄せていた。
「
軽く十数冊は入る引き出しの中で、半分以下にまで減ったフォルダが、開閉の勢いにつられてパタリと倒れる。数ヶ月前、点検をした際には満杯まで麻色のファイルが詰まっていた。それが今は、この有様だ。
残ったフォルダを急いで捲ると、案の定、
「ネクサスマスターの自作自演か、あるいは、チーフオペレーターか?」
保管庫の存在を知る人間は、枝部に3人しかいない。唯一の上官である枝部長と自分と、そしてチーフオペレーターだけだ。
仕事柄、あらゆる可能性を排除しないし、疑ってかかることに躊躇もない。
が、ハリスの集めた機密情報、その保管庫であるこの書架の列を解錠できる者は、自分しかいない。
ブロントにこの秘密を託した際、ハリスはチーフオペレーターであるカニンガム・ハスキーラを交え、書架の鍵の形状全てを自分の手に暗記させた。そして全員の目の前で、全ての鍵を叩き折った。挙げ句、無人の枝部の機関室に二人を連れて行くと、
「でなければ儂自身か。セルフログを見直さねば」
脳内のToDoリストに項目を追加し、ブロントは足早に最後の書架へ足を向けた。
が、途中であることに思い至ると、目的地を変更する。
そうして『ネクサスマスター、ジョン・ハリス』の名札が付いた引き出しを開け、今度こそ絶句した。
「
誰より大量の資料を抱える枝部長の書架は、複数段あった。
その全てが、もぬけの殻になっていた。