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裏方の仕事も

「――だぁッ~!」

「うぜえし皆ビックリしてんだろがレジデント。スペクターのほうがマシな声だすぜ?」


 堪らず頭を抱えて悶絶したリエリーに対し、背後を通り過ぎたアキラが手に持ったレンチを振り下ろす。


「あぶなっ。出た出た、闇アキラ。スペクターじゃなくて、あたしアキラにられて〈レスト墓地〉入りしたくないんだけど」

「全力で叩くわけねえだろ。勝手にシリアルキラー扱いすんじゃねえ」

「だってさっきアキラ――」

「――黙れッ!」


 リエリーの悶絶の比ではない怒声が、格納庫に木霊する。

 複数の救助艇が整備可能な格納庫では、それらがほぼ出払っているおかげで、普段よりも空虚な印象を与えていた。そんな中で、修理や作業にあたっていたスタッフたちの視線が集まり、リエリーは瞬きした。

 アキラ自身、やや遅れて自覚したらしく、ばつが悪そうな表情を浮かべると、大きく息を吸い込んだ。


「サーセンっしたッ!!」

「お、素直アキラだ」

「だれのせいだよ! ……って、アタイか」

「気にすんなって。叫んだらスッキリしたんじゃない?」

「おまえな……」

「――ヒヨコがピーピー鳴いてるかと思えば、次はケガ人の癇癪ですかっ。一体全体、ネクサスマスターは何をお考えになっておられるんだかっ」


 鼻につく鼻声気味のソプラノトーンに、人を見下しきった物言い。目をやらずとも、その声の持ち主が蛍光イエローの作業着を身に纏っているだろうことは、カシーゴ・威療士枝部レンジャーネクサスの者なら周知の事実だった。

 だからリエリーは頭の後ろで手を組んで振り返ると、顎を突き上げてやる。


「それ、ひよこチキンカラーじゃなかったっけ、ピケピケ」

「あ~らっ。『現場にいきたい~』、とゴネてた弱虫チキンが良く言えたものですねっ」

「仕事のジャマしてすいません、ピケット整備長。こいつには、アタイからよく言っときますんで」

「ちょっとアキラ! レイ爺ちゃんが辞めてすぐ、ピケピケが整備長になったんだよ? ぜんっぜん、爺ちゃんにかなわないのに」

「よせって、おまえ――」

「――的確な指摘ですっ、ヒヨコ・リエリー。わが輩とて、カシーゴレンジャーのメカニックを束ねる身っ。自信を持ち合わせているからこそ、過信はしませんっ。かの伝説のメカニック、レイモンド・バークとわが輩自身を比較するなどっ、愚の骨頂っ」

「へ、へー。わかってんじゃん」

「ですがっ! 貴女は、ネクサスマスターの指示を受け、業務として来ているのではありませんかっ?」

「んぐ……」


 枯れた木を思わす人差し指をピケットに立てられ、堪らずリエリーは言葉に詰まっていた。何かと苛立つ物言いをするピケットだが、たいがいその言葉は的を射たものばかりだった。

 そうして上背を睨め上げていると、すっと背筋を正した整備長が問うた。


「ヒヨコ・リエリー。貴女は、チームリーダーと同等の立場を認められたそうですねっ?」

「……だからなに」

「リエリー! おまえ、もういい加減にしろって!」

「構いませんよっ、ケガ人リーダー・レスカ。二人にちょうど良い仕事がありますっ。ついてきてくださいっ」

「やな予感……」


 有無を言わせず、歩き出したネオンカラーの長身。

 その背中を目で追いながら、リエリーは眉根を寄せずにいられなかった。

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