『――いったい、どういうつもりなのっ?!』
依頼してあった用件について意見を交換した後、ハリスは、さりげなく
そうして絶句の沈黙を置いて、公私のパートナーである彼女が投げ付けた言葉が、先のそれだった。
「まあまあ、カーニー。想定外のタイミングだったが、遅かれ早かれのことだったわけだし――」
『――遅かれ早かれですって? ジョン、貴方、自分の状況を本当に理解しているの? 冗談はやめてちょうだい』
「僕が隠してた
『折れた歯で窒息すればよかったのよ。そうすれば、病室に籠もっていられるでしょうに』
「……時々考えるよ。君だけは、敵にしたくないって」
『レンジャーたちと同じくらい、いつも考えていてくれたら、こんな事態にならずに済んだかもしれませんのよ、ネクサスマスター?』
「埋め合わせはちゃんとする。〈ダブルウィング〉に誓って」
易い台詞だ、ハリスは心中で自嘲した。
カニンガムが激怒するのは、無理ないことだった。
その統轄機関こそが、国際威療士会――通称、
あいにく、これらのどことも、ハリスは関係良好と言えなかった。
(故意に意見しているわけではないんだけどね)
カネとコネで現在の地位を手に入れた――多くの者はそう思い込んでいるし、事実、あながち噓でもない。
が、全てそうだとすれば、威士会ひいては〈ルフゥ評議会〉の妨害を受けるはずがなかった。
ハリスがカシーゴ
それが、改革を進めるうち、徐々にあの手この手が伸びて来だした。それは、評価が低かったカシーゴ威療士枝部の実績が伸びれば伸びるほど、比例するように過激さを増していった。
(僕がもっと早く気付いていれば、前ネクサスマスターだって……)
だから、カニンガムは怒っているのだ。
ここまで築き上げてきてものを、まるで何でもないことのように捨て去ろうとしている自分の魂胆を。
隠し通せる自信がなかったとは言え、せめてもうしばらくは自分だけで抱えておきたかった
(リスクが大きいのは知っていた。……だが、まさか人命が脅かされるなんてね。迂闊すぎた)
飛行救命空母の操縦をリエリー・セオークに
が、あまりに代償が大きかった。
リエリーの“保護者役”にと、アキラ・レスカを選んだまではよかった。先の“決闘”で、リエリーはハリスの読み通り、アキラの感情を真正面から受け止め、心に潜めていた影を拭い去ってくれた。――そう思い込んでいた。
が、現実は違った。
(……あれは、何だったんだ? ジェーン・ドゥの差し金か?)
空母の艦橋カメラが捉えた、アキラの涙幽者化。
感覚的なものにはとんと疎いハリスでも、
(彼女たちのことを知れば、今度こそカーニーに愛想を尽かされるだろうね)
件の映像と、艦橋のセンサが捉えたデータは既に、威士会の研究部門の友人へ送ってある。古い友人でもある彼には、状況の解明に必要な手立ては全て講じるよう、頭を下げておいた。
つまり、研究部のリソースを優先して使うことを厭わないということになる。そのためには、所属する有能な研究者たちがデータの子細を知らなければならない。
つまり、ブロントの通報に関わらず、遅かれ早かれ威士会はハリスの“叛逆”を把握する訳だ。
(部下の……子どもたちの命を危険にさらした以上、その原因は必ず突き止めなければ)
そう固く決意を新たにしたところで、自分がいる
どうやら、これからリエリーの尋問を始めるらしい。
「すまない、カーニー。また連絡する。僕のことは捨ててもいいから、ここには帰ってきてくれ」
『ちょっとジョン――』
「……本当にすまない」
そうして短く息を吐くと、ハリスは、純粋な驚きの表情を浮かべている若き