「……そう。そんなことがあったの」
「うん、あった」
顛末を打ち明け終えても、ルヴリエイトが笑うことはなかった。
ただ『つらそうな顔』の絵文字を乳白色の筐体に浮かべ、静かに言葉をこぼした。
「エリーちゃんとレスカちゃんに起きたことは、よくわかったわ。でも、『英雄の仔』についてはサッパリね。ずっとリサーチを掛けてるけれど、どれもありふれたものばかり」
「そ……。ルーがわかんないなら、お手あげだね」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない。ワタシだって、知らないことばかりよ? 全知の
「その気になったらルーもできるじゃん」
「いけませんっ。確かに、ワタシの“
「アキラが“
南里医師に借りた松葉杖、その先端で
すぐさま、ルヴリエイトの
「ジョークで言っていいことと良くないことがあるわ」
「わぁったって。ごめん」
「ハァ……。いい? エリーちゃん、アナタの足、できるものならワタシの
「やめて。もういいから――」
「――聞いて。レスカちゃんのこともよ。エリーちゃん、顔を見れば突っ掛かっていくけれど、アナタがレスカちゃんを慕ってるのも知ってるし、きっとレスカちゃんだって『世話の焼ける後輩』だって思ってるわ」
「……アキラなら言いそう」
「だからワタシも辛いわ。でも今は、お医者さんに任せるしかない。カーラにはメッセしておいたから、きっとあとで来てくれるわ」
ルヴリエイトに、ブロントとの件は話していない。言えば、今ごろ怒鳴り込んでいる。
救助艇の整備中にアキラが不思議な
嘘をついているように思えて嫌だったが、もし、これがブロントが言った通りの
反面、この二人に、自分が目にしたものを話したかった。特にマロカには。マロカなら、何かヒントを思い付くかもしれない。
(あたしが、リーダー代理なんだ。ロカにチームを頼まれた。だったら、あたしがなんとかしないと……。ま、アキラのこと言った時点であんまり意味ないかもだけど)
「ねぇ、エリーちゃん」
決意を新たにしていると、『ウィンクの顔』の絵文字を浮かべたルヴリエイトに名前を呼ばれ、肩にそっと
「ん?」
「もしね、情報で命を救えるなら、エリーちゃんが止めたってワタシはその情報を探しだしてみせる。ネクサスのデータベースだろうと、エアーのだろうと、ワタシはやる。でも、彼らがレスカちゃんを元に戻す情報を持ってるとは思えないのよ。そもそも、持ってたら使わないはずがないもの。それに、レスカちゃんは、レンジャーよ。あのジョンだって黙ってないでしょう。エリーちゃんの上官、何か言ってた?」
「……ううん。てか、会ってない」
これは嘘ではなかった。実際、ジョン・ハリス
「ワタシもよ。きっと今ごろ、てんてこ舞いでしょうね。
「あー……。ルー、そこなんだけどさ」
「うん? なぁに」
『笑顔』の絵文字を浮かべたルヴリエイトが、筐体を傾ける。
これも、決して嘘をついた訳ではなかった。
あの巨大な“船”も、救助艇には違いない。ただ、少しだけ特別なのだ。
それをルヴリエイトに黙っているのは、直感が『危険だ』と言っていた。
(ごめんハリス。あたしもいっしょにルーに怒られてあげるから)
「その救助艇、なんだけど」
「そうよね。余所様のチームの船だものね。菓子折を準備しとかないと――」
「――ちがうんだ。ジョンの物はジョンの物なんだけど、なんていうか、秘密っていうか……」
「あら? うちのネクサスマスター、救助艇なんて持ってたのね。まぁ、あの人ならこっそり持ってたって、驚かないけれど。でも、エリーちゃんに整備を任せるってことは、よっぽど信頼されてる証じゃない。……いいえ、待ってちょうだい。それじゃあ、非公式の船ってことよね? あの人、そんなものにエリーちゃんたちを乗せたっていうの?」
「ま、まあ、ハリハリ、あたしを信じてくれたから
「――なんですって?! 空母の操縦?! どういうことよ!」
「あー、極秘なんだよ――」
「――もうっ! なによ、これ! 戦艦じゃなの! あの腹黒マスター、こんな危険なものにアナタたちを乗せたわけ?!」
「……そういことになる、かも」
「ちゃんと話す必要があるわね。いらっしゃい、エリーちゃん。ワタシにつかまって――」
「――僕を探してたのかい?」
ふいに、倉庫の一角から顔を覗かせた、平均的な壮年男性。
普段、制服姿だけあって、今のような茶のジャケットにジーパン姿は、違和感しかなかった。
そんな枝部長に向かって、ルヴリエイトが『鼻息の荒い顔』の絵文字を差し向ける。
「ネクサスマスター、ジョン・ハリス! うちの子たちにいったい、なにをさせるつもりなのよ!」
「有望なレンジャー諸君の役に立ちたくてね。だが、これは僕の責任だ。非難でもパンチでも、甘んじて受けるさ。むしろ、ボコボコにしてくれるほうが助かる」
「なにをわけのわからないことを! カシーゴレンジャーの“顔”は、勘弁してあげるわ」
「ありがたい気遣いだが、
「「……は?」」