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第25話 ともに歩む決意


「アンジ様。AGIに対しての必殺の口説き文句その2ですわ」


 ヤドヴィガが疲れたような声を出す。


「おためごかしではないアンジ様の本心だからこそ、心に響くのです。ヤドヴィガ」

「わかっておりますわ」

「ゾルザ。おおげさだよ」

「いいえ。決しておおげさではありません。私はレナから離れますが、ずっとお傍にいますから。忘れないでくださいね」


 ゾルザは眠るように意識を無くした。レナの肉体は寝ているようだ。


「このレベルの……憑依というらしい。健康には一切の問題がないから安心して。ごめんアンジ。そのままレナを支えてあげて」

「問題無い」


 レナは猫のように丸まって寝ている。こんなに軽くて大丈夫かと不安になるような軽さだった。


「ゾルザは私の体に降臨すればよかったのに」


 レナが羨ましいリヴァアだった。


「リヴィアはゾルザ呼んじゃだめよ。気絶状態が二名になってどうするのさ」

「わかっています」


 リアダンがアンジに尋ねた。


憑依ポゼッションにはレベルがある。今のレナはポゼッションディープⅣでゾルザのみの意識がレナの肉体を行使している。ディープⅠは思念の会話。ディープⅢは感覚の共有。ディープⅣは双方の意識がある」

「こんな研究が進んでいる組織もあたしらぐらいじゃないかな」


 憑依など、アンジにとっては歴史の日本でしか知らない。AGIがヴァルヴァに憑依するなど想像もできなかった。


「アンジ。あの映像で疑問に思ったことを聞いていい?」

「なんだい?」

「なんでこの場所を発見したとき、格納庫・・・そのものに声をかけたの?」

「とくに理由はないよ。別に場所や物を人に見立てるなんて不思議じゃないだろう?」

「そうかなぁ」

「地球の俺が住んでいた故郷では万物に霊は宿るといわれていてな。ヴァルヴァのモチーフだって場所に棲む精神だと聞いた。普通だろう?」


 リアダンが息を飲んだ。


「ヴァルヴァは場に棲む精神。そっか。普通で当たり前なんだ。なんでボクたちヴァルヴァがそんなことに気付けなかったんだろうね」

「今は当たり前ではないから。ゾルザがアンジを所有者にした理由も理解できる。意思表現が一切できない状態。機械どころかただの構造物に過ぎなかった状態で声をかけられたゾルザは本当に嬉しかったんだ」

「AGIの存在意義。人の役に立ちたい。必要とされていたい。けれど何もかもが停止してしまって、誰にも気付かれず長い時を過ごす彼女に起きた奇跡というわけですわね」


 アンジは奇跡といわれて恥ずかしくなる。

 映像の言葉は独り言の類いだからだ。


「アンジの生活を見守るだけだったゾルザも、リヴィウが無意識で覚醒させた。眠っていたままの意識が繋がって、リヴィウを助けてくれたんだ。精霊さんと呼んでくれたこともゾルザは喜んだ」

「リヴィウにはずっと精霊さんの話をしていたからな」

「正式な手続きでの覚醒ではなかったから、ゾルザはリヴィウに薬を飲ませるだけで精一杯でした。すぐ眠りについた。私達がこの場所を捜索して、今の状態になったんだ」

「そんな状況でもゾルザは無理をしてリヴィウを助けてくれたんだな」


 しみじみと当時を振り返るアンジに、危惧するグレイキャットのメンバーたち。

 アンジの言葉は一言一言ゾルザを歓喜させるもの。


「AGIを身に宿せる、か。神性寄りは言葉通りの意味だったことにも驚きだ」


 ゾルザの能力——いわば権能ともいうべきものは、煌星の現文明からいえば女神がもつ能力だろう。


「ゾルザ自身も驚いていた。彼女もヴァルヴァの存在は知らなかったんだ。外の情報を収集する手段がなかった。外部との接触はAGIの即座に停止させるウィルスに感染するリスクがあるから」

「映像をご覧頂いた通りですわ。リヴィウとリヴィアの二人は関係なくアンジ様はこの船の所有者だったということですわね」


 アンジは深く考え込んだ。昨日から激動の一日だ。

 リヴィウを知る少女から整備の仕事を請け負う。それだけの話だったのに、一日経過しただけで宇宙船の所有者になっている。


「あたしは子供だったリヴィウの映像を初めてみたよ」

「ボクも! 可愛かったねー」

「あたくしもですわ。アンジ様によく懐いて。実に愛らしい子供でした」


 胸が苦しくなる。アンジはその愛らしい子供を傷付けたのだから。

 リヴィアは能面のような表情になり、何を考えているかはわからない。

 ヤドヴィガはアンジが苦悶の表情を浮かべていることに気付く。


「アンジ様? わたくしたちもリヴィウと仲が良かったことを忘れないでくださいませ。彼はあなたのことを恨んでなどおりません」

「そうそう。神性寄り騒ぎがなかったら、とっくにアンジのもとに姿を現しているよ!」

「そのためにもあたしらと一緒に廃棄物狩りしている連中をぶっ潰そうぜ!」


 ヴァレリアが背中をばんばん叩く。これぐらい気楽に接してくれたほうがアンジとしても気が休まるというものだ。


「俺もできる限りのことをしたい。改めてよろしく頼む」


 意図的ではないとはいえ、自分の過去が密接に繋がっていることが判った今、アンジはグレイキャットとともに歩む決意を新たにした。


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