目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第27話 天才アーキテクト

 リヴィアから機体をチェックするテスターの説明をアンジは受ける。

 多くの操作方法は、以前の小型格納庫と同じだった。


「フーサリアは装甲材質がハザーと違うが、ここでは交換できるんだな」


 マカイロドゥスのチェックをしながら、アンジは呟く。


「説明する必要がほとんどありませんね」


 リヴィアが嬉しそうに微笑む。機体に関しては以心伝心に近い。


「フーサリアに触るなんて十年ぶりさ。整備工場ではハザーばっかりだったからな。しっかり教えてくれよ」

「基本構造は同じです。アンジがいった通り、普通のフーサリアは装甲板の交換はできませんが、マカイロドゥスには交換用の装甲があります」

「ハザーの装甲は磁場とプラズマの複合的な被膜を張るタイプのバリアだ。メンテも楽、ビーム全般や砲弾にも有効だが、本来の装甲よりは薄いからな」

「その点フーサリアは積層電磁装甲。装甲間に挿入された媒体は戦闘開始とともに大電流が流され、被弾とともに侵徹体やビームをプラズマと磁場フィールドによって遮断する」

「媒体の補充も装甲の修理も可能ではあるのですが、大きく破損した場合に代替する装甲がありませんでした。——今までは」


 リヴィアがマカイロドゥスを見上げて笑みを浮かべる。彼女の自信作なのだろう。


「ゾルザとともに、真っ先に造り上げたシステムです。ラクシャスは戦闘による損耗も激しく、装甲の交換に苦しんでいたと聞きました」

「そうだったな。ラクシャスはスクラップの寄せ集めだった。二ヶ月も経過すれば違う手脚の部品になっていたよ。交換素材は山ほど溜め込んでいたからな」


 アンジは懐かしさに目を細める。


「装甲間ナノマテリアル媒体も、装甲補強材も、交換合板も完備です。あの時のような苦労はおかけしません」

「リヴィウに聞いたか。あの時の経験が役に立っているなら何よりだよ」


 昔を懐かしむアンジは、切ない視線を送るリヴィアに気付くことはなかった。


「メイン武器は突き剣。コンツェルシュだったか。それと盾。ハザーのプラズマバリア相手なら突進して物理的に突くほうが確実だ」

「アンジが編み出した戦術ですね」

「フーサリアの特性を活かしただけ。ハザーはフーサリアから完全に劣化したとも言い難い。惑星用に最適化された機体なんだろうな」


 アンジはマカイロドゥスの兵装を確認していく。


「実弾兵器も豊富だな」

「アンジが身を以て会得した教訓を活かしています。ビーム兵器の砲身は補充が聞きにくく、実弾兵器は砲弾の確保が厳しい。ラクシャスはおのずと接近戦主体で戦うしかありませんでした」

「あんまり持ち上げないでくれ。図に乗る」


 アンジが苦笑を漏らして、首を横に振る。

 冗談めかしていうあたり、昨夜とは違う。それが何よりリヴィアには嬉しかった。


「チェックは終了です。大きな補修が必要な箇所もありません。自動整備に任せて、明日再度確認しましょう」

「気が付いたことがある。レナと、出撃していないリヴィアの機体は……」


 アンジがあることに気付いて、口ごもってしまう。


「隠せませんね。はい、ラクシャスを参考にしています。加速能力と最大速度は他の機体よりも高く設定されています」

「兵装を限定しすぎではないか」

「援護はリアダンたちに任せています」

「ふむ」


 アンジはしばらく思案して、ふと尋ねる。


「例えばこの機体をもとに、ゾルザにお願いしてリヴィアとマカイロドゥスを使った模擬戦できないかな?」

「——問題ないそうです。指定の機体同士をもとに仮想空間を設定して模擬戦は可能です。何かありましたか?」

「整備する上で機体特性を知りたい。戦場に出ないとはいえ、整備する上で知りたいこともある」

「納得です」

「もう一つ。最強のエースパイロットと戦ってみたくなったんだよ」


 アンジが優しく微笑んだ。思わぬ不意討ちにドキッとするリヴィア。


「胸を借りるつもりでやります!」

「それはこっちの台詞だ。リヴィアは自分の機体で。俺はヴァレリアの機体を借りるとするよ」

「わかりました!」


 リヴィアが嬉しそうに笑う。アンジのやる気が垣間見ることができて心から喜んでいるのだ。

 かつてのように試行錯誤しながらラクシャスをいじっているアンジを彷彿とさせる発言だった。


「試行錯誤中のアンジは、とても手強いとリヴィウから聞いています。楽しみです」

「リヴィアがその目で確かめてくれ。正直、今の俺は自分の評価もできない」


 アンジは正直に胸の裡を明かす。

 自虐でもなんでもなく、実戦から遠のいて十年経過しているのだ。


「兵装はそのままでいいでしょうか? ラクシャスとは違いますが」

「あれは癖の塊みたいなものだからな。仕事とはいえ整備でハザーには乗っていたんだ。動かすことぐらいはできるさ」


 アンジはヴァレリアの機体に乗り込み、操作感覚を確かめようとする。


『シミュレーターを起動します。仮想地形は森林地帯の遭遇戦です』


 コックピット内に合成音声が流れて、スクリーンに映る光景が格納庫から森林に変わる。


『戦闘開始は三分後です。機体の動作確認をしてください』

「機体に慣れるまでの時間もあるのか」


 アンジは初めて搭乗するマカイロドゥスの操縦桿を握りしめ、感触を確かめる。 

 機体は一切動いていないが、仮想空間は操作通りに動いていた。

 アンジはマニピュレーターを握りしめ、数歩進みマカイロドゥスの腰を落とす。


「ラクシャスより素直な挙動だな。リヴィアの設計か」


 仕様から構造設計まで担う天才アーキテクト。リヴィアのことを意味することは間違いない。

 ラクシャスはスクラップの寄せ集め。

 機体特性を似せながらも素直な性能を有しているマカイロドゥスは天才が設計したに相応しい完成度を誇っていた。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?